少額リースの300万円基準は引き上げられるか?重要性の原則による論証の手順

新リース会計基準の適用準備でリース契約の全数調査を行うと、多くの会社が同じ構造に突き当たります。件数の大宗を占めるのは小口の賃貸借で、計上額への寄与は僅少。ところが自動更新や賃料改定が頻繁なため、再測定と割引率の更新の負担だけがそこに集中する。少額リースの金額基準を300万円より上げられないか、という検討はここから始まります。

結論から述べます。上振れは可能な場合がありますが、その足場は適用指針の金額基準の読み替えではありません。企業会計原則注解の重要性の原則を、監査上の重要性の枠組みに沿って定量・定性の両面から立証することによって初めて成立します。順序を間違えると、監査法人との協議は最初の一往復で止まります。

以下では、300万円という水準がどこから来ているのかを条文で確認したうえで、上振れを主張するための論証の骨格と、実務で崩れやすい点を整理します。

本記事は、オンバランスを回避するための手法を示すものではありません。重要性の原則の適用が成立する要件と、その立証に必要な作業を示すものです。立証を欠いたまま金額基準を引き上げれば、会計基準の定めとの差異が未修正の虚偽表示として集計され、監査上の論点になります。

まず確認する:300万円は新しい適用指針の本文に書かれていない

意外に知られていませんが、少額リースの簡便的な取扱いを定める適用指針の本文に、金額の記載はありません。

企業会計基準適用指針第33号 第22項(2)① 企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリースで、かつ、リース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリース

定めているのは二つの定性要件だけです。事業内容に照らして重要性が乏しいこと。そしてリース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいこと。金額の水準は本文にありません。

判定の基礎については、続く項が定めています。

企業会計基準適用指針第33号 第23項 前項(2)①に該当するリースに前項で定める会計処理を適用するにあたり、リース契約1件当たりの金額の算定の基礎となる対象期間は、原則として、借手のリース期間とする。ただし、当該借手のリース期間に代えて、契約上、契約に定められた期間(以下「契約期間」という。)とすることができる。また、リース契約1件当たりの金額の算定にあたり維持管理費用相当額の合理的見積額を控除することができる。

では300万円はどこから来たのか。従来の適用指針です。

企業会計基準適用指針第16号 第35項(3) 企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引で、リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリース取引

新しい適用指針の審議過程でも、この水準は従来の適用指針を踏襲するものと整理され、本文には定性要件を置き、金額の閾値は結論の背景に記載する方向で議論されました(第520回企業会計基準委員会 審議事項)。

300万円は条文のどこにあるか適用指針第33号 第22項(2)①事業内容に照らして重要性が乏しく1件当たりの金額に重要性が乏しい300万円という水準旧・適用指針第16号 第35項(3)を踏襲したもの本文にあるのは定性要件だけ本文には金額の記載がないしたがって、300万円を別の金額に読み替えるという構成は取れない上振れの足場は、適用指針の外にある重要性の原則に求めることになる

図1 300万円は条文のどこにあるか

足場は「基準の読み替え」ではなく「重要性の原則」

ここが論証の分かれ目です。適用指針が予定する水準を自社の判断で引き上げる、という構成では、基準の定めを自ら書き換えることになってしまいます。そうではなく、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準の一部を構成する重要性の原則を適用する、という整理を採ります。

企業会計原則注解〔注1〕 企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきものであるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも、正規の簿記の原則に従った処理として認められる。

そもそも少額リースの簡便的な取扱い自体、重要性が乏しいことを理由に原則的な処理を求めないという発想に立つものです。適用指針の本文が定性要件で書かれていることも、これと整合します。したがって、二階建てで整理するのが素直です。

上振れは二階建てで整理する二階:300万円を超える帯域重要性の原則(企業会計原則注解〔注1〕)の適用として立証する一階:300万円以下の帯域適用指針第33号 第22項(2)①・第23項による簡便的な取扱い一階と二階では根拠条文が違う。二階は自ら立証しなければ成立しない

図2 上振れは二階建てで整理する

監査上の位置づけも先に押さえておきます。二階部分は、会計基準第34号第33項が求める使用権資産およびリース負債の計上を行わないという意味で、基準の定めとの差異です。この差異は監査基準報告書450にいう虚偽表示として集計され得ます。上振れを主張する側は、この点を否定するのではなく、認めたうえで、集計しても重要性の基準値を十分に下回ることを立証する、という立て付けを採るのが実務的です。

立証の骨格① 重要性の基準値をどこに置くか

立証の出発点は、比較の物差しを決めることです。監査人が用いる重要性の枠組みは監査基準報告書320が定めており、会社側の主張もこの枠組みに乗せるのが最短です。

同報告書は、虚偽表示について、個別にまたは集計すると財務諸表の利用者の経済的意思決定に影響を与えると合理的に見込まれる場合に重要性があると判断される、という考え方を示しています。そして基準値の算定に用いる指標として、税引前利益、売上高、売上総利益および費用合計などの損益項目、株主資本合計または純資産を例示し、営利を目的とする企業では税引前利益が使用されることが多いとしています(A4項)。割合については、製造業を営む営利企業において税引前利益を指標とする場合には5%が適切であると考えることがある、としています(A7項)。業種や状況により異なる割合が適切となる場合があることも示されています。

指標 割合の目安 使いどころ
税引前利益 5% 監基報320A7項が例示する割合。ただし単年の利益が異常値のときは注意
複数期の平均利益 5% 業績変動局面での正常化。A5項の考え方が根拠になる
売上高 0.5%程度 利益が薄い、または赤字の局面での補助指標
総資産・純資産 0.5%から1%程度 貸借対照表限りの論点を評価する際の補助指標

監基報320が割合として例示しているのは税引前利益に対する5%です。売上高や総資産に対する割合は、実務上広く用いられている目安であって、基準が定めた数値ではありません。自社で採用する割合とその理由は、いずれにせよ文書として残してください。

ここで実務上の要点が一つあります。利益に異常な項目や大きな変動がある場合には、過年度の数値を参考として正常な税引前利益を算定し、それに基づいて重要性の基準値を決定することがより適切であると判断する場合がある、という記述が同報告書A5項にあります。減益局面の単年の利益をそのまま使うと基準値が沈み、翌期には跳ね上がる。年度によって物差しが伸び縮みするのは、重要性という概念の趣旨に照らして適切ではありません。複数期平均を採る根拠はここにあります。

ただし、複数期平均を採る場合は、最も保守的な単年ベースの値も併記し、それをも超えないことを確認しておくべきです。有利な指標を選んだのではないかという疑いは、この一手間で解消します。逆に、単年値を超えてしまう水準を採るなら、平均値を使う理由の説明だけでは足りません。

立証の骨格② 未計上額をどう測り、どう並べるか

次に、金額基準を上げたことで計上しないことになる契約を特定し、その使用権資産およびリース負債の金額を測ります。判定の基礎は、現行の300万円判定に用いているものと同一にします。適用指針第23項が契約期間ベースや維持管理費用相当額の控除を認めている以上、そこは選択の問題ですが、一階と二階で基礎を変えると首尾一貫性を問われます。

そのうえで、単一の水準だけを示すのではなく、複数の候補水準を並べた感応度分析を作ります。これが説得力の中心になります。

金額基準の候補 対象件数 未計上リース負債 重要性の基準値に対する割合 年間の損益影響
500万円 18件 60百万円 30.0% +0.3百万円
1,000万円 26件 95百万円 47.5% +0.5百万円
3,000万円 34件 210百万円 105.0% +1.2百万円

数値はすべて説明のための仮設例です。重要性の基準値を200百万円と置いた場合の見え方を示しています。この例では3,000万円の水準で基準値を超えるため、採用できるのは1,000万円までという判断になります。自社の数値で同じ表を作ることが、上振れ検討の実質です。

感応度分析を先に出す意味は二つあります。第一に、採用しようとする水準が基準値の範囲内であることを示せること。第二に、より低い水準では当然に成立していることを示せるため、判断が結果ありきでないことの傍証になることです。

評価軸を一つにしない

未計上額の評価は、利益ベースの基準値との比較だけで終わらせないほうが堅牢です。複数の軸で同じ結論が出ることを示します。

評価軸 見るもの 説明の要点
重要性の基準値との比較 未計上リース負債の総額 主たる論証。保守的な単年値との比較も併記する
総資産との比較 適用後の総資産に占める割合 使用権資産を加算した後の総資産で計算する
表示科目との比較 リース負債の計上総額に占める割合 計上額の大部分が財務諸表に表示されることを示す
純資産への影響 資産と負債の両建て 両建てのため純資産への影響はゼロになる
損益への影響 減価償却費と支払利息の合計と、支払リース料との差 年間の差額。基準値に対する割合で示す
主要指標への影響 自己資本比率、1株当たり当期純利益など 識別可能な水準に達しないことを示す

とくに損益への影響については、方向も併せて示してください。使用権資産の減価償却費と支払利息の合計が支払リース料を下回る局面では、簡便的な取扱いを採ることで営業利益や営業キャッシュ・フローがむしろ小さく表示されます。利益やレバレッジ指標を有利に見せる方向には働かない、という事実は、動機の不存在を示す材料になります。

立証の骨格③ 質的重要性の検討

金額が小さいことだけでは足りません。監査基準報告書450は、未修正の虚偽表示が重要であるかどうかの判断において、個別にも集計しても評価することを求め、金額の大きさだけでなく内容および発生状況を考慮するとしています(第10項)。そしてA20項が、金額的には重要でなくても重要と評価される可能性がある状況を例示しています。この例示の一つひとつに当てはめて、いずれにも該当しないことを示すのが定石です。

A20項の例示(要旨) 当てはめの観点
法令の遵守への影響 会計上の簡便処理であり、税務上の取扱いは別途決まる。法令上の問題が生じないことを確認する
借入契約の財務制限条項への影響 純資産や自己資本比率、有利子負債の定義を条項ごとに確認する。ここは実際に確認漏れが起きやすい
翌年度以降への潜在的な影響 差異が累積するのか、毎期の残高ベースで解消するのかを説明する
趨勢の変化の隠蔽 影響額が趨勢を動かさない水準であることを示す
財務分析に用いる比率への影響 自己資本比率などの変動幅が識別可能な水準に達しないことを示す
セグメント情報への影響 特定セグメントに偏って影響しないことを確認する
経営者の報酬への影響 報酬や賞与の算定指標に影響しないことを確認する
公表した業績見込みとの関係 業績予想に対する影響の割合を示す
関連当事者取引の関与 対象契約に関連当事者や連結内取引が含まれないことを確認する

なお、貸借対照表限りの論点については、同報告書A19項が、勘定科目等の分類に係る虚偽表示について、その金額が関連する表示科目の計上額に比べて少額であり、かつ損益計算書や主要な比率に影響を与えていない場合の評価の考え方を示しています。使用権資産とリース負債の両建て計上を行わないという事象は、純資産に影響を与えない貸借対照表限りの項目であるため、この考え方が参考になります。ただし、これに寄りかからず、利益ベースの基準値との比較で結論を出しておくほうが安全です。

立証は三本柱で構成する① 物差しを決める重要性の基準値監基報320の枠組み保守的な値も併記② 未計上額を測る複数水準の感応度分析評価軸を複数持つ損益の方向も示す③ 質的に当てる監基報450 A20項の例示に一つずつ当てはめる三本のどれが欠けても、重要性が乏しいという結論は支えられない

図3 立証は三本柱で構成する

崩れやすい点と、運用でふさぐ統制

立証が通っても、運用が伴わなければ次の期に崩れます。監査法人が必ず確認するのは次の点です。

崩れやすい点 運用でふさぐ方法
契約を分割して基準額の下に潜らせる 分割による回避を明文で禁止し、実質的に一体の契約は結合して判定する手続を定める
物件ごとに有利な扱いを選ぶ 金額基準は全社で一律に適用し、選択の余地を残さない。首尾一貫して適用する旨を会計方針に明記する
事業上重要なリースが基準の下に入る 金額の多寡にかかわらず、事業内容に照らして重要なリースは計上対象とする例外規定を置く
基準値が下がって前提が崩れる 毎期、重要性の基準値と未計上額を再計算し、水準の妥当性を再検証する。超えた場合は基準を引き下げる
基準額の近傍の契約が野放しになる 新規契約と更新契約のうち基準額近傍のものを経理部門がレビューする統制を設ける
監査人との認識がずれたまま進む 未計上額を未修正の虚偽表示の集計に含めることを前提に、早い段階で協議し、経営者確認書での取扱いも決めておく

最後の点について補足します。上振れを主張する側にとって、未計上額が虚偽表示として集計されること自体は不利ではありません。集計されたうえで重要性の基準値を下回るのであれば、それこそが重要性が乏しいことの証明だからです。この点を先に認めておくと、協議の論点が金額の評価に絞られ、話が早くなります。

よくある質問

Q1 300万円を500万円と読み替えて運用してよいですか

その構成は取れません。適用指針の本文は定性要件のみを定めており、300万円という水準は従来の適用指針を踏襲した実務上の目安です。読み替えではなく、重要性の原則の適用として、超過部分が財務諸表利用者の意思決定に影響しないことを立証する必要があります。

Q2 いくらまで上げられますか

一律の上限はありません。上限は自社の重要性の基準値と、その水準で計上しないことになる契約の総額との関係で決まります。利益規模が大きい会社ほど上げられる余地は広く、業績が落ち込んだ期には狭まります。だからこそ、毎期の再検証が要件になります。

Q3 短期リースの簡便的な取扱いとの関係はどうなりますか

短期リースの簡便的な取扱いは適用指針第20項が別に定めており、金額基準とは独立した論点です。両方を採用することは可能ですが、それぞれ適用の単位や選択の方法が定められているため、会計方針として別々に整理してください。

Q4 単体と連結で基準を変えられますか

重要性の基準値は財務諸表ごとに異なり得るため、理屈のうえでは水準が変わることはあり得ます。ただし、実務上は連結ベースで一つの基準を定めて全社に適用するほうが、統制も説明も簡潔になります。異なる基準を併用する場合、その理由と運用方法を明確にしておく必要があります。

Q5 税務への影響はありますか

法人税の所得計算はリース取引に関する税法上の区分に従うため、会計上の簡便的な取扱いをそのまま持ち込むことはできません。会計と税務で処理が分かれる場合は申告調整の対象となります。導入前に税務側の取扱いを整理しておいてください。

Q6 監査法人に受け入れられなかった場合はどうなりますか

金額基準を300万円に戻して計上することになります。手戻りを避けるため、感応度分析と質的検討の資料を先に作り、影響度調査の段階で協議を始めることをお勧めします。協議が長引く最大の原因は、水準の当否ではなく、立証資料が揃っていないことにあります。

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🔗 参考(公的な一次情報)

本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、会計基準・適用指針および監査基準報告書に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。記載した数値はすべて説明のための仮設例であり、特定の企業の実績値ではありません。個別の事実関係により結論が異なりますので、実際の判断にあたっては監査人・専門家にご確認ください。

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