※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。
製造業の月次決算で、営業部門から「今月は売上が伸びたのに、なぜ利益が減ったのか」と聞かれて、経理がうまく答えられない。原因は材料の値上がりなのか、工場の作業効率なのか、生産量が減ったことなのか、数字を見ても切り分けられない。こうした状況は、原価の責任を部門ごとに分ける仕組みがないことから生じます。
結論からいえば、工場から営業部門への払出単価を半年〜1年固定して工場と営業の利益を分け、標準原価との差(原価差異)を毎月要因別に分析し、月次でも簡便な方法で差異を在庫と売上原価に配分して翌月に戻し入れるのが有効です。税務上の原価差額の調整は年度単位で行うものですが、月次の利益を正しく見るためには月次でも調整しておくことが望まれます。本記事では架空の製品の数値例で、その手順を解説します。
この記事の見出し
営業部門には原価の変動要因がわからない:工場払出単価を固定する理由
製品の売上原価は、材料の仕入価格、外注費、工場の作業効率、生産量など、さまざまな要因で毎月動きます。しかし、営業部門はこうした製造側の事情を知りません。売上原価が実際原価のまま営業部門の成績に反映されると、営業担当者は自分では動かせない要因で利益が上下することになり、販売活動の良し悪しが見えなくなります。
そこで、工場から営業部門へ製品を引き渡すときの単価(工場払出単価)を、半年や1年といった期間で固定する実務があります。営業部門から見れば「工場から仕入れる価格」が決まるので、販売価格との差がそのまま営業の成果になります。
図1 工場の利益は払出単価と標準原価の差、営業の利益は販売価格と払出単価の差として測る
架空の製品Xで考えます。実際にかかった原価は1個4,150円、目標とする標準原価は4,000円、工場払出単価を4,400円、販売価格を6,000円とします。このとき、工場の利益は払出単価と標準原価の差の400円、営業の利益は販売価格と払出単価の差の1,600円です。
払出単価の固定には、部門ごとの責任がはっきりするというメリットがある一方、決め方しだいで不満や利益のゆがみも生じます。
図2 部門ごとの責任がはっきりする反面、単価の決め方しだいで不満や利益のゆがみが生じる
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製造部門利益と営業部門利益の分け方(数値例)
製品Xを1個売ると、販売価格6,000円は「標準原価4,000円+工場の利益400円+営業の利益1,600円」に分かれます。実際原価4,150円と標準原価4,000円の差150円は、工場で目標どおりに作れなかった分(原価差異)で、工場側で原因を分析します。
ただし、製造部門が原因をつかめるのは、材料の価格や使用量、賃率、作業時間、経費の使いすぎなど、自部門の活動で生じた差異です。販売が振るわず生産量が計画を下回ったことで固定費が吸収しきれなかった差(操業度差異)は、工場の努力では動かせず、原因は営業側にあります。差異を一括して工場の責任とするのではなく、要因ごとに分ける必要があるのはこのためです。
図3 実際原価との差▲150円(原価差異)は工場側で原因を分析する。ただし操業度差異は営業側の要因も大きい
払出単価の設定では、営業部門と製造部門の利害がぶつかります。とくに、同じような製品を外部から買った方が安い状況になると、営業部門は不満を持ちやすくなります。こうしたときは、どちらか一方の主張で決めるのではなく、経営者が双方の話をよく聞いたうえで自ら裁定することが大切です。
図4 どちらの主張にも理がある。経営者が双方の話を聞いたうえで、自ら裁定するのが基本
標準原価の作り方:直接材料費・直接労務費・直接経費・製造間接費
払出単価と比べる基準になるのが標準原価です。標準原価とは、製品1個を作るのにかかるべき目標の原価で、費目ごとに「標準の数量×標準の単価」で積み上げます。直接材料費は1個当たりの標準消費量に標準の購入単価を、直接労務費は1個当たりの標準作業時間に標準の賃率(1時間当たりの賃金)を掛けて求めます。直接経費は1個当たりの標準額を使います。
図5 費目ごとに「標準の数量×標準の単価」で目標原価を積み上げる
製造間接費(工場の光熱費、減価償却費、間接部門の人件費など、特定の製品に直接ひもづけられない費用)は、まず月間の予算額を、予定している月間の作業時間(基準操業度)で割って配賦率を出します。この配賦率に1個当たりの標準作業時間を掛けると、1個当たりの標準製造間接費になります。配賦率を変動費部分と固定費部分に分けておくと、後で差異を分解するときに役立ちます。
図6 基準操業度とは、予算上予定している月間の作業時間のこと
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代表的な原価差異:材料・労務・製造間接費(予算・能率・操業度)
標準原価は、購買や製造のさまざまな場面に標準を置いて作られているため、実際原価との差を活動ごとに分けて見ることができます。月次決算でも、購買や製造の各部門の業績を測る材料になります。代表的な差異は、直接材料費差異、直接労務費差異、製造間接費差異の3つです。
図7 差異を活動ごとに分けると、どの部門のどの行動で生じたかを追いやすくなる
直接材料費差異は、単価の差(価格差異)と使用量の差(数量差異)に分けます。価格差異は、材料を仕入れた時点でとらえる方法(購入価格差異)と、使った時点でとらえる方法(消費価格差異)があります。架空の例では、当月2,500個を作るのに標準5,000kgのところ5,200kgを使い、単価も標準@700円に対し@720円でした。
図8 価格の差は購買、使用量の差は製造の責任として分けて見る
直接労務費差異は、時間当たり賃金の差(賃率差異)と、作業時間の差(作業時間差異)に分けます。例では賃率は標準より低く有利でしたが、作業時間が100時間多くかかり、全体では不利になっています。
図9 時間当たりの賃金の差(賃率差異)と、かかった時間の差(作業時間差異)に分ける
製造間接費差異は、予算差異・能率差異・操業度差異の3つに分けるのが一般的です。予算差異は実際の作業時間に見合う予算と実際発生額の差、能率差異は標準作業時間と実際作業時間の差に配賦率を掛けたもの、操業度差異は基準操業度と実際作業時間の差に固定費率を掛けたものです。
図10 3つの差異の合計は、標準配賦額と実際発生額の差に一致する
こうして分けた差異を、責任部門ごとに整理しておくと、月次の報告会で「だれが、何を改善すべきか」を具体的に議論できます。差異の分析の進め方は月次の予算実績差異分析のやり方|分析する差異の基準・理由の類型と予算の立て方も参考にしてください。
図11 操業度差異だけは工場の努力では動かせない。販売不振で生産が減ったことが原因になりやすい
原価差異の税務上の扱い:売上原価への賦課と1%超の配賦
原価差異は、会計上は原則として当期の売上原価に含めて処理します。ただし、差異が多額になる場合は、一部が期末の在庫(製品・仕掛品)に対応しているため、売上原価と棚卸資産の両方に配分する必要があります。
法人税でも考え方は同じです。法人税基本通達5-3-1は、実際の原価と計算上の取得価額との差(原価差額)のうち期末の棚卸資産に対応する部分を、在庫の評価額に加算するとしています。そのうえで5-3-3は、原価差額が総製造費用のおおむね1%以内の少額であれば、計算の明細書を確定申告書に添付することを条件に、この調整を省略できるとしています。
図12 法人税基本通達5-3-3による。少額なら調整を省略でき、多額なら期末の棚卸資産にも配賦する
1%を超える場合の配賦方法には、差額を一括して在庫と売上原価の比率で按分する一括調整方式と、工程や製品の流れに沿って差額を順に仕掛品・製品・売上原価へと配っていく転がし計算方式があります。法人税基本通達5-3-5は、一括調整による簡便な方法として、原価差額に「期末の製品・半製品・仕掛品の合計額÷(売上原価+期末の製品・半製品・仕掛品の合計額)」を掛けた額を期末棚卸資産に配賦する算式を示しています。
図13 原価差額を、期末在庫と売上原価の金額の比率で一括して按分する
| 方式 | 考え方 | 向いている会社 |
|---|---|---|
| 一括調整方式 | 差額全体を在庫と売上原価の金額比で按分 | 製品数が多く、簡便に処理したい会社 |
| 転がし計算方式 | 工程順に仕掛品→製品→売上原価へ配分 | 工程別の原価計算が整っている会社 |
| 調整の省略 | 1%以内なら売上原価に含めたまま | 差異が安定して小さい会社 |
なお、税務上の原価差額の調整は事業年度を単位に行うもので、継続適用を条件に上期・下期に分けて行うことも認められています(法人税基本通達5-3-2の2)。月ごとに調整することは前提とされていません。
月次決算での簡便な差異調整と翌月の戻入れ
税務上は年度(または半期)で調整すれば足りるとしても、月次決算で差異を調整しないと、毎月の利益は正しく出ません。差異をすべてその月の売上原価に入れると、在庫を積み増した月は原価が過大に、在庫を取り崩した月は過少になり、利益が月ごとに上下します。
そこで、月次でも一括調整と同じ考え方で、差異の一部を月末在庫に配分しておくのが望ましいといえます。翌月の初めにはこの調整を取り消し(戻入れ)、翌月末にあらためてその月の差異で計算し直します。
図14 月末に差異の一部を在庫へ振り替え、翌月初に取り消して、翌月末にあらためて計算する
例では、4月の不利差異602,000円のうち、月末在庫3,000,000円に対応する150,500円を在庫に振り替え、残りを売上原価としています。戻入れを忘れると、翌月に二重で在庫が膨らむので、調整仕訳は自動で取り消される設定(自動戻し仕訳)にしておくと安全です。
図15 生産量と販売量がずれる月ほど、差異を全額その月の原価にすると利益が上下しやすい
差異は月次の報告資料にも載せます。製造原価を費目別に、予算(当月の生産量に見合う標準原価)と前年同月の両方と比べる表を作っておくと、どの費目で何が起きたかを説明しやすくなります。月次資料全体の作り方は月次決算資料の作り方と前年同月比較|損益は前年同月、貸借対照表は前期末と比べるで、固定費と変動費の分け方は月次で使う経営指標と損益分岐点|収益性・安全性・成長性と固変分解のやり方で解説しています。
図16 予算(標準)との差と前年同月の両方を並べ、差の大きい費目から原因を確認する
製品の受払記録と払出単価の計算そのものについては売上原価と在庫の月次計上|継続記録で払出単価を出し粗利を正しくするを、在庫の評価損の判定は棚卸資産の収益性の低下はどう判定するか|正味売却価額と再調達原価を参照してください。
図17 算定して終わりにせず、原因の分析と責任部門への報告までを毎月の手順に組み込む
| 場面 | 原価差異の扱い | 単位 |
|---|---|---|
| 会計(年度決算) | 原則は売上原価。多額なら在庫にも配分 | 事業年度 |
| 税務(法人税) | 1%以内は調整省略可。超えれば在庫に配賦 | 事業年度(上期・下期も可) |
| 月次決算(管理目的) | 簡便な一括調整で在庫に配分し翌月戻入れ | 月 |
- 工場払出単価を一定期間固定し、経営者が裁定して決めている
- 標準原価カードを費目別に作り、毎期見直している
- 原価差異を材料・労務・間接費の要因別に毎月算定している
- 差異ごとの責任部門を決め、原因を月次で報告させている
- 月次でも簡便な方法で差異を在庫に配分し、翌月に戻し入れている
- 年度末に1%基準を判定し、税務上の調整を行っている
よくある質問
最初から精緻な標準原価でなくても構いません。前期の実績をもとに主要製品だけ目標原価を決め、実際との差を毎月見ることから始めれば、差異の傾向はつかめます。精度は運用しながら上げていけば十分です。
半年から1年ごとが一般的です。頻繁に変えると営業部門の成績が比べにくくなるため、材料価格の大きな変動など特別な事情がない限り、期中は据え置くのが基本です。
月次の調整は管理目的のもので、翌月に戻し入れるため年度の数字には残りません。税務上の調整は、年度末(または半期)の差額にもとづいて別途行います。
最初の一歩は、差異を3つに分けて毎月並べることです
まずは当月の製造原価を、材料・労務・製造間接費の3つについて予算(標準)と比べ、差の大きいものから原因を製造部門と話し合ってください。数か月続けると、どの差異が構造的で、どれが一時的かが見えてきます。
まとめ
製造業の月次決算では、工場払出単価を一定期間固定し、工場の利益(払出単価-標準原価)と営業の利益(販売価格-払出単価)を分けると、部門ごとの成果がはっきりします。標準原価との差は材料・労務・製造間接費の要因別に分け、操業度差異のように営業側に原因があるものも含めて責任部門を明確にします。税務上の原価差額は、総製造費用のおおむね1%以内なら調整を省略でき、超える場合は期末の棚卸資産に配賦しますが、調整は年度(または半期)単位です。それでも月次の利益を正しく見るため、月次でも簡便な一括調整で差異の一部を在庫に配分し、翌月に戻し入れる運用をおすすめします。
月次決算の手順づくり、締めの早期化、月次報告資料の設計、上場準備に向けた体制整備まで、公認会計士・税理士が個別にご相談をお受けします(全国対応・オンライン完結)。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 国税庁 法人税基本通達 第5章第3節(5-3-1 原価差額の調整、5-3-2の2、5-3-3 原価差額の調整を要しない場合、5-3-5 原価差額の簡便調整方法)
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」
- e-Gov法令検索 法人税法施行令(第32条 棚卸資産の取得価額)
- e-Gov法令検索 法人税法(第29条 棚卸資産の売上原価等の計算及びその評価の方法)
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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