役員報酬は、金額を決めるより「いつ、どうやって決めたか」で損金になるかどうかが決まります。同じ1,200万円でも、期首から3か月以内に株主総会で決めて毎月100万円ずつ払えば全額損金、期の途中で急に月200万円に上げれば増額分は損金になりません。手続きの差が、そのまま税額の差になるのがこの分野の特徴です。
しかも役員給与の規定は、条文・政令・通達が三層に積み重なっていて、どこに何が書いてあるのかが分かりにくい構造をしています。定期同額給与の改定時期は施行令、業績悪化改定事由の具体例は国税庁のQ&A、分掌変更時の退職金は基本通達。1か所だけ読んでも判断できません。
このガイドは、役員給与の全体像を条文の構造に沿って整理し、実務で判断が分かれる論点を25本の記事に展開する連載の入口です。まずここで地図を持ってから、個別の論点に進んでください。
📐 全体像|3つの類型に入らなければ、そもそも損金にならない
法人税法第34条第1項は、内国法人がその役員に対して支給する給与のうち、同項各号に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は損金の額に算入しないと定めています。各号に掲げられているのが、定期同額給与(第1号)、事前確定届出給与(第2号)、業績連動給与(第3号)の3類型です。
ここでの発想の順序が重要です。「この支出は損金になるか」ではなく、「3つの箱のどれかに入るか。入らなければ損金にならない」という減点方式で条文が組まれています。
3つの箱に入れば終わりではありません。金額の妥当性という第2の関門があります。
第34条は第8項まであり、項ごとに役割が分かれています。どの項に何が書かれているかを先に押さえておくと、調べものの時間が大きく減ります。
| 項 | 定めている内容 | 実務での使いどころ |
|---|---|---|
| 第1項 | 3類型(定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与)のいずれにも該当しない役員給与は損金不算入 | まずここで「箱に入るか」を判定する |
| 第2項 | 不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は損金不算入 | 金額の妥当性。過大役員報酬・過大退職金の論点 |
| 第3項 | 事実を隠蔽し、または仮装して経理することにより支給する給与は損金不算入 | 簿外の支給、名義を変えた支給 |
| 第4項 | 前3項に規定する給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む | 現金以外の供与も役員給与として扱われる根拠 |
| 第5項 | 業績連動給与の定義 | 指標連動の報酬が第3号に当たるかの判定 |
| 第6項 | 使用人としての職務を有する役員(使用人兼務役員)の定義。社長、理事長その他政令で定めるものは除く | 使用人分賞与を損金にできるかの判定 |
| 第7項 | 第1項第2号ロ・ハの「関係法人」の定義 | 株式・新株予約権を交付する場合 |
| 第8項 | 政令への委任 | 細目は施行令第69条〜第71条にある |
第5項が業績連動給与の定義、第6項が使用人兼務役員の定義です。順番を取り違えている解説を見かけますので、条文を引くときはご注意ください。
🔵 類型①|定期同額給与
最も多くの会社が使うのがこの類型です。施行令第69条第1項第1号は、その支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与(定期給与)で、各支給時期における支給額が同額であるものを定期同額給与としています。
「同額」の判定には補足があります。施行令第69条第2項は、各支給時期の支給額から源泉税等の額を控除した金額が同額である場合には、支給額が同額であるものとみなす旨を定めています。源泉税等の額とは、源泉徴収に係る所得税、特別徴収に係る地方税、健康保険法などの規定により控除される社会保険料等の合計額です。手取りを一定にする設計をとっている会社は、この規定を根拠にできます。
改定できるのは3つの場合だけ
期の途中で役員報酬を変えると、原則として定期同額給与から外れます。例外として認められるのが次の3つです。
| 改定事由 | 要件 | 根拠 |
|---|---|---|
| 通常改定 | 事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までにされた改定。申告期限の延長特例を受けている通算法人等は4か月、法第75条の2第1項の指定を受けている法人はその指定に係る月数に2を加えた月数 | 法令69①一イ |
| 臨時改定事由 | 役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情による改定 | 法令69①一ロ |
| 業績悪化改定事由 | 経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由による改定で、減額した改定に限る | 法令69①一ハ |
申告期限の延長特例を受けている会社は、この線が1か月後ろにずれます。
業績悪化改定事由は「利益調整」では認められない
実務で最も相談が多いのがここです。国税庁「役員給与に関するQ&A」のQ1は、業績悪化改定事由に該当する場合を「経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じたために行ったもの」と説明し、具体例として、株主との関係上、業績悪化の経営責任から減額せざるを得ない場合、取引銀行とのリスケジュール協議において減額が必要な場合、利害関係者からの信用維持のため経営改善計画に役員給与の減額が盛り込まれた場合を挙げています。
逆に該当しないとされているのは「利益調整のみを目的として減額改定を行う場合」です。同Q&AのQ1-2は、現状では数値的指標が悪化しているとまでは言えないものの、経営改善策を講じなければ客観的な状況から今後著しく悪化することが不可避と認められる場合は該当するとし、客観的な状況がない単なる将来の見込みによる減額は該当しないとしています。
「今期は利益が出そうなので役員報酬を上げたい」は、通常改定の期間を過ぎていれば増額部分が損金になりません。逆に「利益が出そうなので下げて調整したい」も業績悪化改定事由に当たりません。利益を見ながら動かすという発想自体が、この制度と噛み合っていません。
減額する場合は、誰との関係で減額せざるを得ないのかを説明できる資料(金融機関との協議記録、経営改善計画、取締役会議事録)を先に用意してください。
🟢 類型②|事前確定届出給与
役員に賞与を出したい場合の受け皿がこの類型です。第34条第1項第2号は、確定した額の金銭、確定した数の株式、新株予約権などを交付する旨の定めに基づいて支給する給与で、定期同額給与にも業績連動給与にも該当しないものを対象とし、イとして、政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長にその定めの内容に関する届出をしていることを要件としています。
届出期限は「早い日」で決まる
施行令第69条第4項第1号が定める届出期限は、次のいずれか早い日です。
| 期限 | 備考 | |
|---|---|---|
| 原則 | 株主総会等の決議によりその定めをした場合の当該決議をした日(同日がその職務の執行を開始する日後である場合には、当該開始する日)から1か月を経過する日 | 「1か月を経過する日」は、決議日の翌日を起算日として翌月の応当日の前日 |
| 上限 | 会計期間開始の日から4か月を経過する日 | 申告期限の延長特例を受けている法人は5か月、指定を受けている法人は指定に係る月数に3を加えた月数 |
| 新設法人 | 設立の日以後2か月を経過する日 | 設立した日の属する事業年度 |
| 臨時改定事由 | 上記の日と、改定事由が生じた日から1か月を経過する日のうち遅い日 | ここだけ「遅い日」になる |
届出書の様式と記載要領は国税庁の「事前確定届出給与に関する届出」(手続コードC1-23)に掲載されています。届出後に金額や時期を変えるときは、変更届出書(C1-24)の提出が必要です。
届出どおりに支給されたかどうかの判定については、国税庁の質疑応答事例に取扱いが示されています。資金繰りの都合で支給額や支給日を変えると影響が大きい類型ですので、変更が必要になった時点で、変更届出書の提出期限とあわせて確認してください。
なお、平成29年6月30日付の改正通達で新設された法人税基本通達9-2-15の4は、第34条第1項第2号のイに掲げる場合とロに掲げる場合のいずれにも該当する場合には、該当するそれぞれに定める要件のいずれも満たす必要があることに留意する旨を定めています。株式を交付する設計では、届出とあわせて適格株式の要件も満たす必要があります。
🟠 類型③|業績連動給与
第34条第5項は業績連動給与を、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の当該内国法人または当該内国法人との間に支配関係がある法人の業績を示す指標を基礎として算定される額または数の金銭・株式・新株予約権による給与などと定義しています。
第1項第3号は、業務執行役員に対して支給する業績連動給与のうち、政令で定める要件を満たすものを損金算入の対象としています。要件はイとロの二段構成で、イはさらに(1)〜(3)に分かれます。
| 要件 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| イ | 算定方法が、利益の状況を示す指標・株式の市場価格の状況を示す指標・売上高の状況を示す指標を基礎とした客観的なものであること | 法法34①三イ、法令69⑫ |
| イ(1) | 確定額または確定数を限度とし、他の業務執行役員に対するものと同様の算定方法であること | 法法34①三イ(1) |
| イ(2) | 政令で定める日までに、報酬委員会の決定その他これに準ずる政令で定める適正な手続を経ていること | 法法34①三イ(2)、法令69⑬〜⑱ |
| イ(3) | その内容が手続の終了の日以後遅滞なく有価証券報告書に記載されていることその他財務省令で定める方法により開示されていること | 法法34①三イ(3) |
| ロ | 交付期限(金銭は指標の数値が確定した日の翌日から1か月を経過する日まで、株式・新株予約権は2か月を経過する日まで)と損金経理要件を満たすこと | 法法34①三ロ、法令69⑲ |
ここで注意したいのがイ(3)の開示要件です。有価証券報告書その他財務省令で定める方法による開示が求められるため、実務上は開示義務のある会社でなければ使いにくい類型になっています。中小企業の役員報酬設計では、原則として①と②の2つで組み立てることになります。
また施行令第69条第16項は内国法人が同族会社でない場合の適正な手続を、第17項は同族会社である場合の適正な手続を定めており、後者は完全支配関係がある法人の報酬委員会等による手続を前提としています。同族会社が単独で業績連動給与を使うのは、この点からも難しいのが実情です。
なお、平成29年6月30日付で新設された法人税基本通達9-2-27の2は、いわゆる功績倍率法に基づいて支給する退職給与は業績連動給与に該当しない旨を明らかにしています。退職金は業績連動給与の枠組みでは考えません。
⚖️ 第2の関門|不相当に高額な部分
3つの箱に入っても、金額が過大であれば、その部分は損金になりません。施行令第70条第1号は、次のイとロのうちいずれか多い金額を過大な役員給与の額としています。
| 基準 | 判定の物差し | 実務で用意する資料 |
|---|---|---|
| イ 実質基準 |
当該役員の職務の内容、その内国法人の収益およびその使用人に対する給与の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況等に照らし、職務に対する対価として相当と認められる金額を超える部分 | 職務分掌表、勤務実態の記録、使用人給与との比較、同業同規模のデータ |
| ロ 形式基準 |
定款の規定または株主総会、社員総会もしくはこれらに準ずるものの決議により定めた限度額等を超えて支給した場合のその超える部分 | 定款、株主総会議事録、報酬限度額の決議内容 |
| 第2号 退職給与 |
業務に従事した期間、退職の事情、同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、相当と認められる金額を超える部分 | 在任期間の記録、退職の経緯、功績倍率の算定根拠 |
| 第3号 使用人分賞与 |
使用人兼務役員の使用人としての職務に対する賞与で、他の使用人に対する賞与の支給時期と異なる時期に支給したものの額 | 使用人の賞与支給日との対比 |
形式基準は自分でコントロールできる関門です。株主総会で報酬限度額を決議していない、あるいは決議した限度額を超えて支給しているという指摘は、議事録を整えるだけで防げます。まずここを固めてから、実質基準の議論に進んでください。
実質基準だけを見て安心している会社ほど、形式基準で指摘を受けます。
🧑💼 使用人兼務役員|賞与を損金にできる例外
第34条第1項の柱書は、使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するものを、損金不算入の対象から除いています。つまり使用人兼務役員の使用人分については、賞与を出しても3類型の枠に縛られません。役員賞与を損金にできる数少ない道です。
ただし、誰でも使用人兼務役員になれるわけではありません。施行令第71条第1項は、次の役員を使用人兼務役員とされない役員として列挙しています。
| 号 | 使用人兼務役員とされない役員 |
|---|---|
| 第1号 | 代表取締役、代表執行役、代表理事および清算人 |
| 第2号 | 副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員 |
| 第3号 | 合名会社、合資会社および合同会社の業務を執行する社員 |
| 第4号 | 取締役(指名委員会等設置会社の取締役および監査等委員である取締役に限る)、会計参与および監査役ならびに監事 |
| 第5号 | 同族会社の役員のうち、株主グループの順位・株主グループの所有割合10%超・本人等の所有割合5%超という3つの要件のいずれにも該当する者 |
加えて第34条第6項は、使用人兼務役員を「部長、課長その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事するもの」と定義しています。肩書きだけでなく、常時その職務に従事している実態が必要です。
そして施行令第70条第3号のとおり、使用人分の賞与を他の使用人と異なる時期に支給すると、その額は過大な役員給与として損金不算入になります。使用人兼務役員の賞与は、必ず他の使用人と同じ支給日に払ってください。
💼 役員退職給与|金額と時期の2つの論点
役員退職金には、金額が過大でないか(施行令第70条第2号)と、いつ損金にするかという2つの論点があります。
いつ損金になるか
国税庁のタックスアンサーNo.5208は、法人税基本通達9-2-28・9-2-29を根拠に、次のように整理しています。
原則は、株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度。ただし、法人が退職金を実際に支払った事業年度において損金経理をした場合は、その支払った事業年度において損金の額に算入することも認められる。なお、決算期に未払金計上した場合でも、未払金に計上した時点での損金算入はできない。
「退職金を未払計上して今期の利益を圧縮する」という設計は、この点で成り立ちません。
分掌変更でも退職金を出せるか
代表を退いて非常勤になる、取締役から監査役になるといった場面で、退職金を打ち切り支給できるかという論点があります。法人税基本通達9-2-32は次のように定めています。
法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。
例示されているのは次の3つです。いずれにも、実質的に経営上主要な地位を占めている者を除く旨の括弧書きが付いています。
| 例示 | 除かれる者 |
|---|---|
| 常勤役員が非常勤役員になったこと | 常時勤務していない者であっても、代表権を有する者、および代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者 |
| 取締役が監査役になったこと | 監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者、およびその法人の株主等で施行令第71条第1項第5号に掲げる要件のすべてを満たしている者 |
| 分掌変更後における役員の給与が激減(おおむね50パーセント以上の減少)したこと | その法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者 |
同通達の注書きは、本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれないとしています。分掌変更による打切支給は、実際に払うことが前提です。
3つの例示のいずれかに形式的に当てはめれば足りる、という読み方は危険です。通達の柱書は「その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる」ことを求めています。例示は入口であって、判定は実態です。
とくに、代表権を外して報酬を半分にしたが、実際には従来どおり意思決定をしているというケースは、税務調査で必ず確認されます。決裁権限規程・稟議書・取引先との窓口の変更まで含めて、実態を変えてください。
🎁 現金以外も役員給与になる|経済的な利益
第34条第4項は、同条第1項から第3項に規定する給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むとしています。国税庁のタックスアンサーNo.5202は、法人税基本通達9-2-9などを根拠に、役員等に対する経済的な利益として次のものを挙げています。
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| 資産の贈与 | 役員等に資産を贈与した場合のその資産の時価 |
| 低額譲渡 | 資産を時価より低い価額で譲渡した場合の時価と譲渡価額との差額 |
| 高額買入れ | 役員等から資産を時価より高い価額で買い入れた場合の買入価額と時価との差額 |
| 債権放棄・免除 | 役員等に対して有する債権を放棄しまたは免除した場合のその債権の額 |
| 債務の引受け | 役員等から債務を無償で引き受けた場合のその債務の額 |
| 住宅の提供 | 居住用土地または家屋を無償・低額で提供した場合の通常取得すべき賃貸料と実際に徴収した額との差額 |
| 無利息・低利貸付 | 無利息または低率で金銭を貸し付けた場合の通常取得すべき利率による利息と実際に徴収した利息との差額 |
| 用役の提供 | 上記以外の用役を無償・低額で提供した場合の通常取得すべき対価と実際に収入した対価との差額 |
| 機密費等 | 機密費等の名義で支給したもののうち、法人の業務のために使用したことが明らかでないもの |
| 個人的費用 | 役員等の個人的費用の負担額 |
| 社交団体の入会金等 | 役員等が負担すべき社交団体の入会金等の額 |
| 生命保険料 | 役員等を被保険者および保険金受取人とする生命保険契約の保険料の全部または一部を負担した場合のその負担額 |
同ページは、これらのうち継続的に供与される経済的利益で、その額が毎月おおむね一定であるものは定期同額給与に該当し損金算入される旨も述べています。社宅の提供や社用車の利用のように毎月一定額で継続するものは①の箱に入る一方、単発の資産贈与や債権放棄は3類型のどこにも入らず、損金になりません。
役員社宅の賃貸料相当額は所得税基本通達36-40・36-41で計算します。小規模な住宅等の判定は、法定耐用年数が30年以下の建物は床面積132平方メートル以下、30年を超える建物は99平方メートル以下かどうかで行います(通達の文言では「木造家屋以外の家屋については99平方メートル」)。
📅 1年の流れで見る役員給与
ここまでの内容を、3月決算会社の年間スケジュールに落とすと次のようになります。
この1枚を経理と社長で共有しておくと、期中の「上げたい・下げたい」に振り回されなくなります。
月次の記帳チェックから決算・申告、税務調査への備えまで、公認会計士・税理士が一貫して対応します。今の処理が正しいかどうかの確認だけでも承ります。
📚 全25回の目次
※各回のリンクは、記事の公開にあわせて順次追加していきます。まずは全体像の把握にご活用ください。
第1部 定期同額給与(第1〜3回)
第2部 事前確定届出給与と業績連動給与(第4〜7回)
第3部 使用人兼務役員と過大判定(第8〜12回)
第4部 役員退職給与(第13〜15回)
第5部 経済的な利益(第16〜21回)
第6部 運用の実務(第22〜25回)
❓ よくある質問
Q1.役員報酬は期首から3か月以内に決めないといけないのですか。
通常改定として認められるのは、事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までにされた改定です(法人税法施行令第69条第1項第1号イ)。申告期限の延長特例を受けている通算法人等は4か月、法人税法第75条の2第1項の指定を受けている法人はその指定に係る月数に2を加えた月数となります。この期間を過ぎると、臨時改定事由か業績悪化改定事由がなければ改定できません。
Q2.赤字なので役員報酬を下げたいのですが、いつでも下げられますか。
いつでも下げられるわけではありません。業績悪化改定事由に当たる必要があり、国税庁の「役員給与に関するQ&A」は、経営状況の悪化に伴い第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じたために行ったものであることを求めています。利益調整のみを目的とする減額は該当しません。
Q3.役員に賞与を出したいのですが、方法はありますか。
3つあります。第一に事前確定届出給与として、届出期限までに所轄税務署長に届け出る方法。第二に業績連動給与ですが、有価証券報告書等での開示が要件になるため、実質的に上場会社とその子会社に限られます。第三に、使用人兼務役員の使用人としての職務に対する賞与を、他の使用人と同じ時期に支給する方法です。
Q4.事前確定届出給与の届出期限を1日過ぎてしまいました。
届出は第34条第1項第2号イの要件ですので、期限までに届出をしていなければ、その給与は事前確定届出給与に該当しません。届出期限は、株主総会等の決議をした日(同日が職務の執行を開始する日後である場合には当該開始する日)から1か月を経過する日と、会計期間開始の日から4か月を経過する日のいずれか早い日です(施行令第69条第4項第1号)。新設法人は設立の日以後2か月を経過する日となります。
Q5.専務や常務でも使用人兼務役員になれますか。
なれません。施行令第71条第1項第2号は、副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員を、使用人兼務役員とされない役員として列挙しています。代表取締役、代表執行役、代表理事、清算人、合名会社等の業務執行社員、指名委員会等設置会社の取締役および監査等委員である取締役、会計参与、監査役、監事も同様です。加えて同項第5号は、同族会社の役員のうち一定の株式保有要件をすべて満たす者を除いています。
Q6.役員退職金を未払計上して今期の損金にできますか。
できません。国税庁のタックスアンサーNo.5208は、決算期に未払金計上した場合でも、未払金に計上した時点での損金算入はできないとしています。原則は株主総会の決議等によって額が具体的に確定した日の属する事業年度、例外として実際に支払った事業年度に損金経理をした場合はその事業年度での損金算入も認められます。
Q7.代表を退いて非常勤になったら、退職金を出せますか。
法人税基本通達9-2-32は、常勤役員が非常勤役員になったことなどを例示していますが、常時勤務していない者であっても代表権を有する者、および代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者は除かれます。形式的な肩書きの変更ではなく、地位または職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることが必要です。
Q8.社宅を貸したら役員給与になりますか。
賃貸料相当額を徴収していれば給与課税は生じません。国税庁のタックスアンサーNo.2600は、法定耐用年数が30年以下の建物は床面積132平方メートル以下、30年を超える建物は99平方メートル以下を小規模な住宅とし、その場合の賃貸料相当額を、建物の固定資産税の課税標準額の0.2パーセント、12円に総床面積を3.3平方メートルで除した数を乗じた額、敷地の固定資産税の課税標準額の0.22パーセントの合計としています。小規模な住宅でない場合や、床面積240平方メートル超などの豪華社宅は計算方法が異なります。毎月おおむね一定額であれば定期同額給与として扱われます。
📄 まとめ
役員給与の判断は、次の順序で行うと迷いません。第一に、3つの類型(定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与)のどれに入れるかを決める。第二に、その類型の手続要件(改定時期、届出期限、開示要件)を満たす。第三に、金額が不相当に高額でないかを実質基準と形式基準の両方で確認する。第四に、現金以外の供与が経済的な利益として混ざっていないかを点検する。
中小企業の実務では、業績連動給与が使えないため、①定期同額給与を基本とし、賞与が必要なら②事前確定届出給与で受けるという設計になります。そのうえで、賞与を柔軟に出したい役員がいるなら、使用人兼務役員として整理できるかを検討します。
この分野で最も多い失敗は、期の途中で「上げたい・下げたい」が出てきてから条文を調べ始めることです。決算が終わった時点で次期の水準を決め、6月末までに手続きを終える。この型を作ってしまえば、役員給与で否認を受けることはほとんどなくなります。
🔗 参考(公的な一次情報)
- 法人税法 第34条(役員給与の損金不算入)、第36条(過大な使用人給与の損金不算入)、第54条・第54条の2
- 法人税法施行令 第69条(定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与)、第70条(過大な役員給与の額)、第71条(使用人兼務役員とされない役員)、第72条・第72条の2
- 国税庁 タックスアンサーNo.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」
- 国税庁 タックスアンサーNo.5202「役員等に対する経済的利益」
- 国税庁 タックスアンサーNo.5203「使用人が役員へ昇格したとき又は役員が分掌変更したときの退職金」
- 国税庁 タックスアンサーNo.5208「役員の退職金の損金算入時期」
- 国税庁 タックスアンサーNo.2600「役員に社宅などを貸したとき」
- 国税庁「役員給与に関するQ&A」(平成20年12月、平成24年4月改訂・PDF)
- 国税庁「事前確定届出給与に関する届出」(手続コードC1-23)および同変更届出(C1-24)
- 法人税基本通達 9-2-9(経済的な利益)、9-2-15の3〜9-2-15の5(事前確定届出給与)、9-2-27の2・9-2-28・9-2-32(退職給与)、9-2-45〜9-2-47(出向者に対する給与等)
- 所得税基本通達 36-40、36-41(給与等とされる経済的利益の評価)
本記事は公認会計士・税理士が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、条文の最新版をご確認のうえ、専門家にご相談ください。