会計方針を変更する、過去の決算に誤りが見つかった——遡及処理の方針が固まったあとで必ず持ち上がるのが「では税務はどうするのか」という論点です。過去の申告書まで出し直すのか、当期の申告書で吸収するのか。ここが決まらないまま決算スケジュールだけが進んでしまう、という声をよく伺います。
本記事では、会計上の遡及処理と法人税申告の関係を「確定決算主義」から整理します。軸は「会計上さかのぼっても、過去の確定申告は原則として動かさない」という一点です。
この記事でわかること
- 会計上の遡及処理が過去の確定申告に影響しない理由
- 会計上の変更・誤謬の訂正の4類型ごとの税務上の対応
- 別表四・別表五(一)でどのように申告調整するか(数値例つき)
- 評価方法・償却方法を変更する場合の税務手続と期限
🧭 なぜ会計上の遡及処理は過去の申告に影響しないのか
出発点は「確定した決算に基づく」という原則
法人税法は、内国法人は各事業年度終了の日の翌日から二月以内に、確定した決算に基づき所得金額等を記載した申告書を提出しなければならないと定めています(法人税法74条1項)。ここでいう「確定した決算」とは、定時株主総会の承認など会社法上の手続を経て確定した決算を指すものと一般に理解されています。また、益金・損金の額は、別段の定めがあるものを除き一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されます(法人税法22条4項)。この構造が、いわゆる確定決算主義です。
遡及処理は過去の「確定した決算」を作り直すものではない
企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」に基づく遡及適用や修正再表示は、過去の財務諸表を新しい方針で作成していたかのように表示し直す処理ですが、過去の株主総会で承認された決算そのものが差し替わるわけではありません。国税庁が公表した情報でも、遡及処理は過去に「確定した決算」を修正するものではないため、その過年度の確定申告において誤った課税所得の計算を行っていたのでなければ、過年度の課税所得の金額や税額に影響を及ぼすことはない、と整理されています。
裏を返せば、「会計上の誤りか」と「税務上の誤りか」は別々に判定するということです。会計上は誤謬でも、税務上もともと損金にならない項目なら過去の課税所得は誤っていません。この切り分けが実務での最初のハードルです。
図1 会計は過去にさかのぼるが、税務はさかのぼらない。
📊 4つの類型ごとに税務上の対応は変わる
同基準は、会計方針の変更は遡及適用(基準6項)、表示方法の変更は財務諸表の組替え(基準14項)、見積りの変更は将来にわたる処理(基準17項)、過去の誤謬の訂正は修正再表示(基準21項)と定めています。税務上の対応もこれに応じて変わります。
| 類型 | 会計上の処理 | 過去の確定申告 | 当期の申告書での対応 |
|---|---|---|---|
| 会計方針の変更 | 遡及適用(基準6項) | 原則として是正不要 | 別表四で留保の加減算、別表五(一)の期首金額欄で調整 |
| 表示方法の変更 | 財務諸表の組替え(基準14項) | 影響なし | 所得金額に影響しない。別表五(一)の調整項目名が実態と合わなくなる場合は名称を見直す |
| 会計上の見積りの変更 | 将来にわたる処理(基準17項) | 影響なし | 遡及処理をしないため、期首利益積立金額の調整は生じない |
| 過去の誤謬の訂正 | 修正再表示(基準21項) | 税務上も課税所得の計算を誤っていた場合は是正が必要 | 別表四・別表五(一)で調整。是正を要する場合は修正申告や更正の請求を別途検討 |
🧾 遡及処理をしても、当期の申告書では調整が必要
利益剰余金の前期末残高と当期首残高が一致しなくなる
遡及適用や修正再表示を行うと、前期末の利益剰余金と当期首の利益剰余金が累積的影響額の分だけ食い違います。一方、税務上の利益積立金額は前期の申告で確定した金額のまま動いていません。この食い違いを当期の申告書のなかで埋める必要があります。
具体的には、別表五(一)の「繰越損益金」の期首金額に遡及処理後の利益剰余金を記載し、区分欄の空欄に「○○(過年度遡及)」と科目名を付けて期首金額欄で差額を調整します。国税庁の情報でも、この記載方法が設例をもって示されています。損益に影響する調整なら、あわせて別表四で留保の加算または減算を行います。
数値例:賞与引当金の計上漏れを修正再表示したケース
前提(3月決算のA社。法人税等および税効果会計の影響は省略します)
X2年3月期(当期)の決算作業で、X1年3月期(前期)末に計上すべきだった賞与引当金80の計上漏れが判明。重要性があると判断し修正再表示を行う。賞与引当金は税務上、損金の額に算入されない。前期末の利益剰余金は1,000、当期の会計上の当期純利益は500。対象の賞与は当期中に支給され、引当金は全額取り崩された。
会計上の処理——当期首の利益剰余金を80減額し、賞与引当金80を計上します。期首残高は1,000から920になります。
前期の申告——賞与引当金はもともと税務上の損金になりません。仮に前期に計上していても別表四で加算されるだけで課税所得は変わらないため、前期の申告を是正する必要はありません。
当期の申告——期首の賞与引当金80は支給で取り崩されるため、当期の損益計算書にこの80は費用として現れません。一方、税務上は当期の支給で債務が確定し、80は当期の損金になります。そこで別表四で「賞与引当金認容(過年度遡及)80」を減算(留保)し、所得金額は当期利益500から80を減じた420となります。
| 区分 | 期首現在利益積立金額 | 当期の減 | 当期の増 | 差引翌期首現在利益積立金額 |
|---|---|---|---|---|
| 賞与引当金 (過年度遡及) |
80 | 80 | — | 0 |
| 繰越損益金 | 920 | 920 | 1,420 | 1,420 |
| 差引合計額 | 1,000 | 1,000 | 1,420 | 1,420 |
表1 当期の別表五(一)の記載イメージ(数値は筆者が設定した仮の例)。期首の80と繰越損益金920の合計1,000が前期末の1,000と一致します。
この「期首の調整額と繰越損益金の合計が前期の期末残高に戻るか」は、遡及処理を行った期の申告書レビューで最初に見るべき点だと考えられます。合わない場合は、累積的影響額の算定か別表の転記に誤りがある可能性が高いといえます。
⚖️ 過去の確定申告を是正すべきかを判定する
過去の申告に手を入れる必要があるかは、次の順序で考えると整理しやすくなります。
図2 過去の確定申告を是正する必要があるかの判定フロー。
1つ目は、会計上の取扱いが「過去の誤謬の訂正」に当たるかどうかです。会計方針の変更・表示方法の変更・見積りの変更は、過去の会計処理が誤っていたわけではないため、過去の申告を是正する場面ではありません。
2つ目は、その誤りによって過去の課税所得の計算も誤っていたかどうかです。損金不算入の引当金や、売却まで損金にならない評価損の計上漏れは、会計上は誤謬でも過去の課税所得には影響していません。この場合は過去の申告を是正せず、当期の別表五(一)の期首金額欄で調整するにとどまります。
3つ目は、過去の課税所得が過少だったか過大だったかです。過少なら修正申告を、過大なら更正の請求などを検討します。仮装経理による過大申告では、修正再表示による処理が法人税法129条1項の「修正の経理」として取り扱われる旨が国税庁の情報で示されています。ここから先の手続と期間制限は次回の第16回で取り上げます。
修正再表示の要否判断から影響額の算定・注記案の作成・監査法人対応まで、公認会計士が伴走支援します。
📅 会計方針の変更に伴う税務手続と期限
評価方法・償却方法の変更には事前の承認申請が要る
会計方針の変更のうち、棚卸資産の評価方法や減価償却資産の償却方法の変更は税務上も手続が必要です。いずれも変更しようとするときは納税地の所轄税務署長の承認を受けなければならず、申請書は新しい方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までに提出します(法人税法施行令30条1項・2項、52条1項・2項)。
見落とされやすいのが承認のみなし規定です。申請書の提出があった場合に、その事業年度終了の日(中間申告書を提出すべき法人は、その事業年度開始の日以後6か月を経過した日の前日)までに承認または却下の処分がなかったときは、その日に承認があったものとみなされます(同令30条5項、52条5項)。処分の通知が届かないまま決算を迎えても、この規定で取扱いが定まります。
図3 評価方法・償却方法を変更する場合の税務手続の順序。
確定申告書には「過年度事項の修正の内容を記載した書類」を添付する
確定申告書には、貸借対照表・損益計算書その他の財務省令で定める書類を添付します(法人税法74条3項)。この書類には、株主資本等変動計算書等に記載がない場合の「過年度事項の修正の内容」を記載した書類が含まれます(法人税法施行規則35条1項2号ロ)。国税庁の情報では、変更や誤謬の内容・理由・影響を受ける勘定科目と金額などを任意の様式で記載したものがこれに当たるとされ、会社計算規則に定める注記表にこれらが表示されている場合はその注記表を添付すれば足りるとされています。
監査法人からは「会計上の変更の適用開始時期と、税務上の変更承認申請の対象事業年度が一致しているか」「申請書の控えを確認できるか」を問われることがあります。会計上は当期から新方針を適用しているのに税務上の申請が翌期からになっていた、という食い違いは決算後では取り返しがつきません。方針変更を決めた段階で、税務担当へ申請期限を共有しておくことをおすすめします。
遡及処理を行う期の税務チェックリスト
- 誤謬の場合、税務上も課税所得の計算が誤っていたかを項目ごとに判定したか
- 別表五(一)の期首調整額と繰越損益金の合計が前期の期末残高と一致しているか
- 評価方法・償却方法の変更について、期限までに変更承認申請書を提出したか
- 確定申告書に、過年度事項の修正の内容を記載した書類(または注記表)を添付したか
🗒️ よくある質問
損金に算入される償却費は、その事業年度に償却費として損金経理をした金額のうち償却限度額に達するまでの金額とされています(法人税法31条1項)。修正再表示では損益計算書に費用が計上されないため、この要件を満たすかが問題になります。国税庁は公表した情報のなかで、修正再表示による処理は当期首において損金経理をしたものと同一視し得るとして、否認額を「償却費として損金経理をした金額」に含めるものとして差し支えない旨を示しています。
組替えは所得金額に影響しないため、別表五(一)の期首利益積立金額を調整する必要はありません。ただし旧科目名で調整項目が残っていると貸借対照表と対応が取れなくなります。翌期以降の作成者が追えるよう、区分欄の名称を新しい科目名に合わせておくとよいと考えられます。
まとめ
会計上の遡及処理は、過去の確定した決算を差し替えるものではありません。過年度の申告で課税所得の計算そのものを誤っていたのでなければ、過去の申告は動かさず、生じたズレを当期の別表四・別表五(一)で調整するのが基本的な流れです。税務上も誤っていた場合は、修正再表示とは別に修正申告や更正の請求を検討します。会計と税務のどちらの土俵の話かを常に意識することが、判断を早める近道だと考えられます。
連載の全体像は過年度修正 完全ガイドにまとめています。次回の第16回「過去の誤りと修正申告・更正の請求|期間制限と手続の実務」では、期間制限と加算税・延滞税の考え方を整理します。
参考
- 企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」6項・14項・17項・21項(企業会計基準委員会)
- 法人税法22条4項、31条1項、74条1項・3項、129条1項(e-Gov法令検索・法人税法)
- 法人税法施行令30条1項・2項・5項、52条1項・2項・5項(e-Gov法令検索・法人税法施行令)
- 法人税法施行規則35条1項2号ロ(e-Gov法令検索・法人税法施行規則)
- 国税庁「法人が『会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』を適用した場合の税務処理について(情報)」平成23年10月20日(国税庁)
監修
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区)。監査法人での上場会社・IPO準備会社の監査経験をふまえ、過年度の会計処理の見直しから開示・監査法人対応までを支援しています。
本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の会計処理の判断は、監査人・専門家にご確認ください。
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