子会社の売上計上に不自然な点がある、前任者の作った資料と帳簿が合わない——そうした報告が上がってきたとき、経理責任者の頭には「これは開示が必要な事案なのか」「調査は社内で足りるのか」「決算発表は間に合うのか」が一度に押し寄せます。判断の順番を誤ると、後から開示の遅れそのものを問題視されることもあります。
本記事では、不適切な会計処理が見つかったときの初動から再発防止までを、適時開示・法定開示の期限・上場管理措置という3つの軸で整理します。
- 発覚直後に何を判断し、何を開示するか
- 社内調査委員会と第三者委員会をどう使い分けるか
- 決算発表・有価証券報告書の期限と、延長の承認制度
- 特別注意銘柄・改善報告書といった上場管理措置の流れ
- 監査法人から実際に問われる論点
🧭 全体像|調査・開示・訂正は並行して進む
不適切な会計処理への対応は、「調査が終わってから開示する」という直列の作業ではありません。事実関係の解明、投資者への情報提供、財務諸表の訂正、再発防止策の実行が同時並行で進みます。日本取引所自主規制法人が2016年2月に公表した「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」も、根本原因の解明、第三者委員会を設置する場合の独立性・中立性・専門性の確保、実効性の高い再発防止策、そして迅速かつ的確な情報開示という4つの原則を掲げ、開示は「把握の段階から再発防止策実施の段階に至るまで」行うものとしています。
図1 調査・開示・訂正は順番待ちではなく並行して進みます。どの段階で誰が動くかをあらかじめ決めておくことが実務の鍵になります。
会計処理そのものの扱いは、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」に沿って判断します。意図的であるかどうかにかかわらず、過去の財務諸表に誤りがあれば「誤謬」に該当し(基準4項(8))、重要性があるものは修正再表示によって過去の財務諸表を直します(基準21項)。判定の考え方は本連載の第10回・第11回で扱っています。
⏰ 発覚直後にやること|初報の適時開示
いつ開示するか
上場会社は、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす重要な決定を行った場合(有価証券上場規程402条1号)、および同様の重要な事実が発生した場合(同条2号)に、直ちにその内容を開示することとされています。過年度の決算に誤りがある可能性が判明し、調査委員会の設置を決定した場合は、この規定に沿って開示の要否を検討することになります。
悩ましいのは、金額も原因も確定していない段階で開示してよいのか、という点です。「確定してから」と待つと、外部からの報道が先行するリスクがあります。確定した数値を出せない場合でも、判明した事実・調査を開始したこと・調査体制・今後の見通しの4点に絞って初報を出し、続報で補う形が取られることが多いと考えられます。
初報に書くこと・書けないこと
初報の段階では、影響額を断定的に書かないことが大切です。後で数字が動けば、その修正自体が新たな開示事由になります。「現時点で判明している事項」と「調査により変動し得る旨」を分けて示す書き方が現実的でしょう。
🧭 調査体制をどう選ぶか
調査体制は、社内のメンバーで構成する社内調査委員会と、外部の弁護士・公認会計士などで構成する第三者委員会に大きく分かれます。両者の中間として、社内の役職員に社外の専門家を加えた委員会を設ける例もあります。
図2 どの調査体制を選ぶかの判定フロー。経営陣の関与や影響の広がりが大きいほど、外部の目を入れる必要性が高まります。
| 比較の観点 | 社内調査委員会 | 第三者委員会 |
|---|---|---|
| 委員の構成 | 社内の役職員が中心。監査役等や社外役員が加わることもある | 会社と利害関係のない弁護士・公認会計士等の外部専門家で構成する |
| 強み | 事業や業務プロセスの前提知識があり、着手が早い | 独立性・中立性が確保され、調査結果の説得力が高い |
| 弱み | 経営陣が関与する事案では客観性を疑われやすい | 体制の立ち上げと調査に時間と費用がかかる |
| 向く場面 | 影響範囲が限定的で、経営陣の関与が想定されない事案 | 経営陣の関与が疑われる事案、複数年度・広範囲に及ぶ事案 |
前掲のプリンシプルは、内部統制の有効性や経営陣の信頼性に相当の疑義が生じている場合、企業価値の毀損度合いが大きい場合、複雑または社会的影響が重大な事案では第三者委員会の設置が有力な選択肢になるとしています。同時に、第三者委員会という形式だけを整えて不十分な調査に客観性の装いを持たせることのないよう留意すべきことも示されています。
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📅 決算発表・法定開示の期限をどう扱うか
調査が長引くと、次に問題になるのが期限です。取引所規則では、決算の内容が定まった場合は直ちにその内容を開示するものとされています(上場規程404条)。調査中で決算の内容が定まらない場合は、決算発表の延期とその理由を開示したうえで、確定後に速やかに開示する対応が採られます。
図3 決算短信は決算の内容が定まり次第の開示、有価証券報告書は事業年度経過後3か月以内が原則です。調査が長引く場合の受け皿が承認制度です。
法定開示では、内国会社の有価証券報告書は事業年度経過後3か月以内が原則ですが、やむを得ない理由により期間内に提出できないと認められる場合は、あらかじめ内閣総理大臣の承認を受けた期間内に提出することができます(金商法24条1項)。承認を受けようとする場合は、承認を受けようとする期間、事業年度終了の日、承認を必要とする理由などを記載した承認申請書を財務局長等に提出します(開示府令15条の2第1項)。半期報告書についても、上場会社等は上半期経過後45日以内の政令で定める期間内が原則で、同様に承認による期間の延長が定められています(金商法24条の5第1項)。
承認申請には理由を証する書面の添付が求められます(開示府令15条の2第2項)。調査の進捗と提出見込みを早い段階で当局・取引所・監査人と共有しておくことが、結果として期限管理の要になります。
⚖️ 上場管理措置の流れ
取引所の措置は、事案の重さに応じて段階的に用意されています。以下は主なものです。
| 措置 | 根拠 | 概要 |
|---|---|---|
| 特別注意銘柄への指定 | 上場規程503条 | 虚偽記載を行った場合などで、内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められるときに指定される。指定から1年経過後速やかに内部管理体制確認書を提出し、審査を受ける(503条5項〜7項) |
| 改善報告書 | 上場規程504条 | 適時開示に係る規定違反や企業行動規範の「遵守すべき事項」違反があり、改善の必要性が高いと認められるときに、経過と改善措置の記載を求められる |
| 改善状況報告書 | 上場規程505条 | 改善報告書の提出から6か月経過後、速やかに改善措置の実施状況・運用状況の報告を求められる |
| 公表措置 | 上場規程508条 | 取引所が措置の内容等を公表する |
| 上場廃止 | 上場規程601条 | 改善報告書の提出の求めに応じない場合や、開示の状況等が改善される見込みがないと認められた場合など(601条1項10号a、施行規則601条8項1号・2号) |
なお、上場規程でいう「虚偽記載」は、訂正命令や課徴金納付命令を受けた場合、告発が行われた場合、または訂正報告書等を提出した場合であってその訂正内容が重要と認められる場合を指します(上場規程2条30号)。訂正報告書を出したことが直ちに措置に直結するわけではなく、内容の重要性が判断の要素になります。「特設注意市場銘柄」という呼び名を目にすることがありますが、現在の規程上の名称は「特別注意銘柄」です。
特別注意銘柄に指定された場合、指定から1年経過後速やかに内部管理体制の整備・運用の状況等を開示することも求められます(上場規程408条の3)。指定は体制を立て直す期間の始まりという位置づけです。
🏢 監査法人から問われること
監査人は、誤りの金額そのものよりも、その誤りが生じた仕組みに強い関心を持ちます。監査対応で実際に問われるのは、次のような点です。
- 調査の範囲は十分か。同じ手口が他拠点・他期間で行われていない根拠は何か
- 調査結果を裏づける証憑は保全されているか(メール・システムログを含む)
- 誤りの発見が内部統制によるものか、外部からの指摘によるものか
- 訂正後の数値と、比較情報・注記の整合が取れているか
- 再発防止策が、特定された根本原因に対応しているか
特に「範囲の十分性」は、調査を社内で完結させた場合に指摘を受けやすい論点です。調査計画の段階で監査人と範囲の考え方をすり合わせておくと、後戻りを減らせます。
✅ 発覚直後の初動チェックリスト
- 誰が・いつ・どのように端緒を把握したかを時系列で記録した
- 経営者と監査役等(監査役会・監査等委員会・監査委員会)へ報告した
- 会計監査人へ第一報を入れ、今後の連絡体制を決めた
- 関係する証憑・データの保全を指示した(削除・上書きの防止)
- 適時開示の要否を、上場規程402条に照らして検討し記録に残した
- 調査体制の案(社内/社外/混成)と決議の予定日を定めた
- 決算発表日と有価証券報告書の提出期限を洗い出し、遅延リスクを評価した
- 社外への窓口(IR・広報)を一本化した
順番にも意味があります。証憑の保全は初日に手を打たないと取り返しがつかず、開示の要否判断は「検討した記録」が残っていること自体が後の説明材料になります。
❓ よくある質問
A. 上場規程402条2号は、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす重要な事実が発生した場合に直ちに開示することを求めています。金額が確定していないことは、開示を見送る理由にはなりにくいと考えられます。判明した事実と未確定である旨を分けて記載し、続報でつないでいく方法が実務的です。
A. 不祥事対応のプリンシプルは法令や取引所規則とは異なり、上場会社を一律に拘束するものではなく、充足度が低いことだけを理由に規則上の根拠なく措置が行われることはないとされています。ただし、経営陣の関与が疑われる事案で社内調査のみとした場合、調査の客観性について説明を求められる場面は増えると考えられます。
🗺️ まとめ
実務は、①端緒の把握と報告、②初報の適時開示、③調査体制の決定、④事実調査と影響額の算定、⑤訂正と開示、⑥再発防止と改善、という流れで進みます。調査体制の選択は、経営陣の関与の疑いと影響の広がりで方向が決まります。期限は、決算の内容が定まったら直ちに開示する取引所ルール(上場規程404条)と、法定開示の期限および承認による延長(金商法24条1項、開示府令15条の2)を分けて管理することが要点です。
会計上の誤りをどこまで遡って直すかという判断そのものについては、過年度修正 完全ガイドに各回をまとめています。次回は、過年度遡及処理と税務の関係(確定決算主義との関係と申告調整の考え方)を扱います。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区)。監査法人での上場会社監査・IPO支援の経験をふまえ、過年度の会計処理の見直しや監査法人対応を支援しています。
本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の会計処理の判断は、監査人・専門家にご確認ください。記載内容は2026年8月時点の法令・規則に基づいています。
過年度の会計処理の見直し・修正再表示の要否判断から影響額の算定、注記案の作成、監査法人対応まで、公認会計士が伴走支援します。お問い合わせフォームからご相談ください。