会計方針の変更で遡及適用を行うことになった、あるいは過去の誤謬が見つかって修正再表示を行うことになった。影響額の集計は終えたものの、「この修正に税効果はどう当てるのか」「過去の期の繰延税金資産まで計算し直すのか」で手が止まっていませんか。
ここは監査法人との協議で最後まで残りやすい論点です。しかも遡及適用か修正再表示かで結論が逆になる部分があり、間違えると影響額そのものがずれます。本記事では、遡及処理と税効果会計の関係を判定の順序と数値例で整理します。
- 遡及処理で一時差異が生じ、税効果の計算が必要になる理由
- 遡及適用と修正再表示で回収可能性の判断の前提がどう違うか
- 企業分類が形式上変わったとき、どちらの期に影響を反映するか
- 影響額を算定するための数値例と、監査法人で問われるポイント
🧾 遡及処理をすると、なぜ税効果の計算が必要になるのか
企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下「基準」といいます)では、会計方針の変更を行った場合、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することが原則とされています(基準6項)。過去の財務諸表における誤謬が発見された場合には修正再表示を行います(基準21項)。いずれも、表示する過去の各期間の財務諸表に当該各期間の影響額を反映します(基準7項(2)、21項(2))。
ここで動くのは会計上の資産・負債の金額だけです。課税所得計算上の資産・負債の金額は、遡及処理をしたからといって自動的に修正されるわけではありません。その結果生じた差額は通常、一時差異に該当するため、表示する過去の各期間の財務諸表において税効果会計を適用する必要があると考えられます(税効果会計に関するQ&A Q13(1)、(2))。
つまり遡及処理は、「過去の財務諸表を直す」作業であると同時に、「過去の各時点の一時差異と繰延税金資産を作り直す」作業でもあります。見落とすと、比較情報の税引前当期純利益だけが動いて法人税等調整額が動かず、税負担率が不自然になります。
資産・負債の増減と一時差異の向き
| 遡及処理で動くもの | 動き方 | 生じる差異と税効果 |
|---|---|---|
| 資産 | 減少する (売掛金の過大計上の訂正など) |
将来減算一時差異が生じ、回収可能性を検討したうえで繰延税金資産を計上 |
| 資産 | 増加する (収益認識の時期が早まる場合など) |
将来加算一時差異が生じ、繰延税金負債を計上 |
| 負債 | 増加する (引当金の計上不足の訂正など) |
将来減算一時差異が生じ、回収可能性を検討したうえで繰延税金資産を計上 |
| 負債 | 減少する | 将来加算一時差異が生じ、繰延税金負債を計上 |
※ 表示方法の変更に伴う組替えは、資産・負債の金額が動かないため対象外です。また、更正の請求や修正申告により過去の課税所得そのものが動く場合は、一時差異ではなく法人税等の金額の修正として処理する部分が生じます。
🧭 遡及適用と修正再表示で、回収可能性の前提が変わる
実務で最も差がつくのが、回収可能性をどの前提で判断するかです。回収可能性は、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下「回収可能性適用指針」といいます)に従い、要件に基づいて企業を(分類1)から(分類5)に分類し、当該分類に応じて回収が見込まれる計上額を決定します(回収可能性適用指針15項、16項)。
遡及処理を行うと過去の時点の将来減算一時差異や課税所得の水準が変わるため、この企業分類が形式上は変わってしまうことがあります。ここで遡及適用と修正再表示は扱いが分かれます。
図1 遡及処理に税効果をどう当てるかの判定フロー(本文で説明した内容のみで構成しています)
| 比較の観点 | 遡及適用(会計方針の変更) | 修正再表示(過去の誤謬の訂正) |
|---|---|---|
| 過去の各期間に税効果を当てるか | 当てる | 当てる |
| 過去の年度の企業分類を見直すか | 見直さない。過去の時点の判断はその時点で最善の見積りを行ったものであり、本質的な将来の収益力は会計方針の変更で変わらないため | 修正が必要と考えられるときは見直す。修正後の見積課税所得や企業分類を基礎に判断 |
| 分類が変わった影響をどこに反映するか | 会計方針の変更を行った年度の損益に反映 | 修正再表示の一環として、過去の期首の資産・負債・純資産の額に反映 |
| 典型的な帰結 | 比較情報の繰延税金資産は原則としてそのまま。当期の法人税等調整額が動く | 比較情報の期首時点で繰延税金資産が取り崩され、利益剰余金が減る |
この差は、会計上の見積りの変更は過去に遡って処理せず、将来にわたり会計処理を行うとされていること(基準17項)に由来します。回収可能性の判断は会計上の見積り(基準4項(3))に該当するため、会計方針の変更で見積りの前提が変わった場合は将来に向けて反映するのが筋になります。一方、誤謬の訂正はもともと誤りがなかったかのように直す処理であり、見積りの基礎データ自体が誤っていた以上、修正後の数値を前提に判断し直すことになります(税効果会計に関するQ&A Q13(1)、(2))。
過去の各時点の一時差異の洗い出し、企業分類の見直しの要否、比較情報の繰延税金資産の再計算、監査法人への説明資料の作成まで、公認会計士が伴走支援します。
📊 自作の数値例で影響額を追ってみる
ここからは架空の設例です。実際の数値は各社の状況で異なりますので、考え方の確認としてご覧ください。
前提条件
- A社は3月決算の上場会社。X3年3月期に、X1年3月期の機械装置について計上すべき減損損失を計上していなかったことが判明した(誤謬に該当)
- 表示期間はX2年3月期とX3年3月期の2期。X2年3月期の期首時点で、計上すべきだった減損損失の累計額は200百万円
- 当該減損損失は税務上損金に算入されず、過去の課税所得への影響はない。法定実効税率は30%とする
- X2年3月期首時点の企業分類は(分類4)で、翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額は80百万円
- 従来からの将来減算一時差異のうち、翌期に解消が見込まれる額は50百万円
影響額の算定
修正再表示により、X2年3月期首の機械装置が200百万円減額され、同額の将来減算一時差異が生じます。ただし税率を乗じた60百万円がそのまま繰延税金資産になるわけではありません。(分類4)に該当する企業においては、翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて翌期の一時差異のスケジューリングを行った結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとされています(回収可能性適用指針27項)。
翌期の課税所得の見積額80百万円のうち50百万円は従来からの一時差異の解消で使われるため、新たな200百万円の一時差異のうち回収の裏付けがあるのは30百万円分です。したがって繰延税金資産は9百万円のみ計上し、残る51百万円は評価性引当額となります。
図2 自作の数値例における繰延税金資産60百万円の内訳(9+51=60、単位:百万円)
結果として、X2年3月期の期首に「機械装置 200百万円の減額/繰延税金資産 9百万円の計上/利益剰余金 191百万円の減少」という修正が入ります。仮にこの訂正で企業分類が(分類4)から(分類5)に修正されるべきだと判断される場合は、新たに生じた一時差異だけでなく、もともと計上していた繰延税金資産も含めて取崩しの要否を検討することになると考えられます。影響が新規発生分にとどまらない点は見落とされやすいところです。
🏢 監査法人で問われる点とIPO準備企業の留意点
監査対応でほぼ必ず確認を受けるのが、「過去の各時点の回収可能性を、何をもって判断したのか」という点です。遡及適用なら当時の中期計画や課税所得の見積りをそのまま用いたことの説明が、修正再表示なら修正後の課税所得や企業分類に基づいて判断し直したことの説明と根拠資料が求められます。過去の取締役会資料まで遡って揃えるため、影響額の算定と並行して資料収集を始めると手戻りが減ります。
また、税効果会計を適用したときは、繰延税金資産及び繰延税金負債の発生の主な原因別の内訳と、法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との間に差異があるときの当該差異の原因となった主な項目別の内訳を注記します(財務諸表等規則8条の12第1項1号、2号)。評価性引当額がある場合には、当該評価性引当額を併せて注記します(同条2項1号)。遡及処理を行うと比較情報側のこれらの注記も作り直しになるため、差替え漏れに注意が必要です。
IPO準備企業では、直前期・直前々期の財務諸表を作り直す局面でこの論点に直面します。業績見通しを引き上げた結果として企業分類が上がるので繰延税金資産を追加計上したい、という議論が出ることもありますが、それは遡及処理とは別の当期の見積りの問題です。両者は分けて整理することをおすすめします。
❓ よくある質問
財務諸表の組替えは、新たな表示方法を過去の財務諸表に遡って適用していたかのように表示を変更するものです(基準4項(10))。科目の分類や配列が変わるだけで資産・負債の金額は動かないため、通常は新たな一時差異は生じません。
過去の課税所得そのものが減額される場合、その部分は一時差異ではなく、過年度の法人税等の金額の修正として比較情報に反映します。一方、税務上損金・益金に算入されない修正であれば課税所得は動かず、一時差異として税効果会計の対象になります。更正の請求の期限や手続は、本連載の第16回「更正の請求の期限と修正申告」で扱っています。
遡及適用の場合、過去の年度における企業の分類が異なる状況になったとしても、過去の年度の繰延税金資産の回収可能性には影響させず、その影響は会計方針の変更を行った年度の損益に反映すると考えられます(税効果会計に関するQ&A Q13(1))。比較情報側の繰延税金資産を遡って取り崩すのではなく、変更年度の法人税等調整額で受け止める整理です。
🗺️ まとめ
「一時差異は過去の各期間で認識する」という点では、遡及適用も修正再表示も共通です。分かれるのは、回収可能性を判断する前提を過去の時点のものに据え置くのか、修正後の数値に置き換えるのかという一点です。遡及適用は据え置いて変更年度の損益で受け、修正再表示は置き換えて過去の期首残高に反映する。この対比を押さえれば、影響額の集計方針が早い段階で固まります。
影響額の算定には、過去の各時点のスケジューリング資料と課税所得の見積り資料が必要です。手元にどこまで残っているかを先に確認し、早めに監査法人と論点を共有しておきましょう。連載の全体像は過年度修正 完全ガイドにまとめています。
📄 参考
- 企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」4項(3)、4項(10)、6項、7項(2)、17項、21項、21項(2)(基準本文)
- 企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」15項、16項、27項(適用指針本文)
- 日本公認会計士協会 会計制度委員会「税効果会計に関するQ&A」Q13(1)、(2)(Q&A本文)
- 財務諸表等規則 8条の12第1項1号・2号、同条2項1号(e-Gov法令検索)
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区)。上場企業・上場子会社・IPO準備企業の会計論点の整理と監査法人対応を支援しています。
本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の会計処理の判断は、監査人・専門家にご確認ください。
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