更正の請求の期限と修正申告|過年度の誤りを税務上どう直すか

過年度の誤りが見つかったとき、会計上は修正再表示で決着しても、税務はそれとは別に動きます。「更正の請求はまだ間に合うのか」「修正申告に加算税はかかるのか」「粉飾が原因なら払いすぎた法人税はすぐ返ってくるのか」。決算訂正の実務では、この3つが必ず論点になります。

本記事では、公認会計士・税理士として上場企業やIPO準備企業の決算訂正に関与してきた立場から、過去の申告の誤りを税務上どう直すのかを、条文に沿って整理します。

この記事でわかること

  • 税額が過少・過大それぞれの場合に使う手続と根拠条文
  • 更正の請求の期間制限(5年・10年・2月)の考え方
  • 修正申告に伴う加算税・延滞税がどう決まるか
  • 仮装経理(粉飾)による過大納付の還付が制限される仕組み

🧾 会計上の修正再表示と、税務の手続は別に動く

会計上、過去の誤謬(財務諸表作成時に入手可能な情報を使わなかったこと、またはこれを誤用したことによる誤り)は、原則として過去の財務諸表を修正再表示することで訂正します(企業会計基準第24号4項(8)、21項)。比較情報として表示される過去の期間の数値そのものを直す処理です。

これに対して、法人税の確定申告は事業年度ごとに確定しています。会計上さかのぼって直しても、過去に提出した申告書が自動的に書き換わることはありません。所得金額に影響する誤りであれば、誤りのあった事業年度ごとに、修正申告または更正の請求という手続を別途とる必要があります。

ここで実務が混乱しやすいのは、会計上の誤謬と税務上の所得計算の誤りが必ずしも一致しない点です。会計上は修正再表示に当たっても、税務上はもともと損金・益金の額が変わらない項目であれば、税務手続は生じません。監査法人からは「修正再表示に伴って未払法人税等や還付法人税等をいつの期に、いくら計上するのか」「更正の請求が認められる見込みをどう評価したのか」を必ず問われますので、会計と税務の両面を同じ資料で説明できるように整理しておくことをおすすめします。

🧭 過少なら修正申告、過大なら更正の請求

図1 過年度の申告の誤りを見つけたときの税務手続の分かれ目過年度の申告に誤りを発見その事業年度の税額が過少になっていたか税額に影響しない誤りか法定申告期限から5年以内か判決の確定などの後発的事由があるか修正申告を提出する(通法19条1項)税務上の手続は不要(会計上の修正再表示のみ)更正の請求をする(通法23条1項)その翌日から2月以内に更正の請求(通法23条2項)YesYesYesYesNoNoNoNo更正の請求はできない(23条1項・2項に該当せず)

図1 誤りを見つけたときに、どの税務手続に進むかの分岐。

納税申告書を提出した者は、申告した税額に不足額があるときなどには、税務署長による更正があるまでは、課税標準等または税額等を修正する納税申告書(修正申告書)を提出することができます(通法19条1項)。提出した時点で税額が確定する、納税者側で完結する手続です。

反対に、申告した税額が過大であるときなどは、税務署長に対して更正をすべき旨の請求(更正の請求)をします(通法23条1項)。こちらは請求しただけでは税額は変わらず、税務署長が調査のうえ更正をするか、更正をすべき理由がない旨を通知することで決着します(通法23条4項)。請求書には、更正前後の課税標準等・税額等、請求の理由、請求に至った事情の詳細を記載する必要があり(通法23条3項)、理由の基礎となる事実を証明する書類の添付も求められます(通令6条2項)。

比較項目 修正申告 更正の請求
使う場面 申告した税額が過少だった(納付不足) 申告した税額が過大だった(納めすぎ)
根拠条文 通法19条1項 通法23条1項・2項
確定の仕方 申告書の提出により税額が確定 税務署長の更正によって確定(通法23条4項)
期間 税務署長の更正があるまで 法定申告期限から原則5年
附帯税 延滞税・加算税の対象 還付加算金が加算される(通法58条)

⏰ 期間制限は「法定申告期限から5年」が基本

図2 修正申告・更正の請求と、税務署長の更正の期間制限法定申告期限5年7年10年更正の請求(通法23条1項)原則5年純損失等の金額(法人税)10年修正申告(通法19条1項)更正があるまで更正・決定(通法70条)5年+2年後発的事由(判決の確定等)がある場合は、その事由が生じた日の翌日から2月以内に更正の請求ができます(通法23条2項)。偽りその他不正の行為があるときの更正は7年(同70条5項)。

図2 更正の請求・修正申告と、税務署長側の更正の期間制限の関係。

更正の請求ができるのは、その申告書に係る国税の法定申告期限から5年以内です。ただし、申告書に記載した純損失等の金額が過少であった場合のうち法人税に係るものは、10年以内とされています(通法23条1項)。欠損金の繰越期間に対応した取扱いで、過年度修正で繰越欠損金が増える方向の誤りが見つかったときに効いてきます。

5年を過ぎていても、判決(判決と同一の効力を有する和解等を含む)によって計算の基礎とした事実と異なることが確定した場合などは、その確定した日の翌日から2月以内に更正の請求ができます(通法23条2項)。政令では、許認可の取消し、契約の解除、帳簿書類の押収など、5つの理由が定められています(通令6条1項)。決算訂正の実務では、係争中だった取引の判決が確定して過年度の収益認識が変わる、といった場面が典型です。

税務署長側の期間制限も押さえておくと全体像がつかめます。更正・決定は原則として法定申告期限等から5年(通法70条1項)、偽りその他不正の行為により税額を免れた国税については7年(通法70条5項)とされています。

数値例|費用の期ずれが2つの事業年度に影響するケース

3月決算の会社が、X1年3月期に計上すべき業務委託費8,000千円をX2年3月期に計上していた誤りを、X3年9月に発見したとします(法人税率は23.2%と仮定します)。

  • X1年3月期:損金が8,000千円不足していたため所得が過大。8,000千円×23.2%=1,856千円が過大納付となり、更正の請求の対象。期限は法定申告期限X1年5月31日から5年後のX6年5月31日で、間に合う。
  • X2年3月期:損金が8,000千円過大だったため所得が過少。同じく1,856千円が増差本税となり、修正申告の対象。
  • 資金面では両者がほぼ相殺されるものの、X2年3月期分には納期限の翌日から延滞税がかかり、X1年3月期分の還付には還付加算金が付きます。
  • 会計上は、X3年3月期の財務諸表で比較情報を修正再表示することになると考えられます。

※上記は説明のための仮設例です。実際の税率・端数処理・地方税への影響は個別に確認してください。

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💰 加算税・延滞税と、仮装経理があった場合の特例

附帯税 課される場面 割合
延滞税 修正申告書を提出して納付すべき税額があるとき(通法60条1項2号) 納期限の翌日から2月を経過する日までは年2.8%、それ以降は年9.1%(令和8年1月1日〜令和8年12月31日、国税庁公表)
過少申告加算税 期限内申告書の提出後に修正申告書の提出または更正があったとき(通法65条1項) 増差本税の10%。期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分は5%上乗せ(通法65条2項)
重加算税 課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽・仮装し、それに基づき申告していたとき(通法68条1項) 過少申告加算税に代えて35%

実務上重要なのは、自主的に早く直すほど負担が軽くなる仕組みになっている点です。調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでない修正申告は、加算税の割合が10%ではなく5%になります(通法65条1項かっこ書)。さらに、その修正申告が調査通知(調査の対象となる税目・課税期間等の事前通知)がある前に行われたものであるときは、過少申告加算税は課されません(通法65条6項)。過年度の誤りを社内で発見した場合、税務手続の着手を先延ばしにする理由はほとんどないと考えられます。

一方、粉飾決算のように事実を仮装して経理し、その結果として法人税を過大に納めていた場合には、通常とは異なる取扱いになります。税務署長は、その法人がその後の事業年度で仮装経理について修正の経理をし、かつ修正の経理をした事業年度の確定申告書を提出するまでの間は、更正をしないことができるとされています(法法129条1項)。国税庁が公表している情報では、過年度遡及会計基準に従った修正再表示による処理も、この「修正の経理」として取り扱って差し支えないとされています。

減額更正がされた場合も、仮装経理に対応する部分の法人税額(仮装経理法人税額)は原則として直ちには還付されません(法法135条1項)。更正の日の属する事業年度開始の日前1年以内に開始した各事業年度の確定法人税額に達するまでの金額が還付され(同条2項)、残額は以後の各事業年度の法人税額から順次控除されます(法法70条)。控除しきれない部分は、更正の日の属する事業年度開始の日から5年を経過する日の属する事業年度の確定申告期限までに還付される仕組みです(法法135条3項)。粉飾の訂正は、資金繰りの回復に時間がかかる点を経営陣に説明しておく必要があります。

着手前に確認したいチェックリスト

  • 誤りの内容を事業年度ごとに分解し、各年度で税額が過少か過大かを区分したか
  • 各事業年度の法定申告期限から5年(純損失等の金額に係る法人税は10年)の期間内かを確認したか
  • 調査通知の前か後かを確認したか(過少申告加算税の適用の有無に直結する)
  • 仮装・隠蔽に当たる事実があるかを整理し、修正の経理の方法を監査人・顧問税理士と事前に合意したか

🗒️ よくある質問

Q. 会計上は修正再表示したのに、税務では何もしなくてよいことがありますか。

あります。会計上の誤謬と、税務上の所得計算の誤りは範囲が異なるためです。たとえば、税務上もともと損金算入が認められていない項目の会計上の区分誤りであれば、所得金額は変わらず、修正申告も更正の請求も生じません。誤りを一つずつ、所得への影響の有無で仕分けることが出発点になります。

Q. 粉飾決算で法人税を過大に納めていた場合、更正の請求をすればすぐ還付されますか。

仮装経理に基づく過大申告には特例があり、通常の還付とは異なります。まず、修正の経理をして確定申告書を提出するまでは税務署長が更正をしないことができるとされ(法法129条1項)、減額更正後も一定額を超える部分は直ちに還付されず、以後の事業年度の法人税額から順次控除される扱いです(法法135条1項・2項、法法70条)。還付の時期を織り込んだ資金計画が必要になると考えられます。

🧭 まとめ

過年度の誤りへの対応は、会計上の修正再表示と税務上の手続を切り分けて考えることが第一歩です。事業年度ごとに税額が過少か過大かを判定し、過少なら修正申告(通法19条1項)、過大なら法定申告期限から原則5年以内の更正の請求(通法23条1項)に進みます。5年を過ぎていても後発的事由があれば2月以内の請求が可能で(通法23条2項)、仮装経理が絡む場合は還付の時期に特例がかかります。

連載の他の回は過年度修正 完全ガイドから一覧できます。前回は会計上の遡及処理と確定決算主義の関係を、次回は「遡及適用・修正再表示と税効果会計|繰延税金資産の回収可能性への影響」を取り上げます。

監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区)。監査法人で上場会社・IPO準備会社の法定監査に従事し、現在は過年度修正・決算訂正の実務支援、IPO支援、税務顧問を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の会計処理の判断は、監査人・専門家にご確認ください。

参考

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