減価償却方法の変更はどう扱う?会計方針と見積りの区別が困難な場合

「生産設備の減価償却方法を、定率法から定額法に変えたい」。設備投資の計画が一巡した局面や、海外子会社との会計処理の統一を進める局面で、経理部門にこうした相談が持ち込まれることがあります。

このとき最初に確認したいのは、過去の決算をやり直す必要があるのかという点ではないでしょうか。減価償却方法は会計方針の一つとされているため、原則どおりであれば遡及適用が必要にも思えます。ところが実際には、減価償却方法の変更について遡及適用は求められていません。

本記事では、その根拠と、代わりに求められる注記、税務上の変更承認申請の期限、監査法人から問われる「正当な理由」の組み立て方までを、公認会計士の立場から整理します。

この記事でわかること

  • 減価償却方法の変更が遡及適用の対象外となる根拠(基準19項・20項)
  • 「会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合」の位置づけ
  • 定率法から定額法へ変更した場合の当期の減価償却費と影響額の計算(自作の数値例)
  • 会計基準・財務諸表等規則・会社計算規則で求められる注記の対応関係
  • 税務上の償却方法の変更承認申請の期限と、会計との足並みの揃え方
  • 監査人が「正当な理由」の判断で総合的に勘案する事項

🧭 減価償却方法の変更は「会計方針の変更」なのか

会計方針には該当するが、遡及適用は求められない

企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下「基準」といいます)では、会計方針の例として「固定資産の減価償却の方法」が挙げられています(基準4-5項(3))。つまり、減価償却方法は会計方針そのものです。会計方針の変更は、原則として新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することとされています(基準6項)。ここだけを読めば、定率法から定額法への変更でも過去の財務諸表を作り直すことになりそうです。

しかし基準には、これを打ち消す定めが置かれています。会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合については、会計上の見積りの変更と同様に取り扱い、遡及適用は行わないとされています(基準19項)。そのうえで、有形固定資産等の減価償却方法および無形固定資産の償却方法は、会計方針に該当するがその変更については前項(第19項)により取り扱う、と明記されています(基準20項)。

結論として、減価償却方法の変更は「会計方針の変更」でありながら、処理は会計上の見積りの変更と同じく将来にわたって行うことになります。比較情報として表示する前期の財務諸表を作り直す必要も、期首の利益剰余金を修正する必要もありません。

図1 会計上の変更の分類と処理の判定フロー会計処理の方法を変更する(過去の誤謬の訂正ではない)変更するのは減価償却方法または無形固定資産の償却方法ですかはい会計方針だが遡及適用しない見積りの変更と同様に処理(基準20項)いいえ変更するのは会計処理の原則及び手続(会計方針)ですかいいえ会計上の見積りの変更として将来にわたり会計処理(基準17項)はい会計方針の変更を見積りの変更と区別することが困難ですかはい遡及適用しない(基準19項)注記は基準11項(1)(2)と18項(2)いいえ過去の期間すべてに遡及適用(基準6項)

図1 どの類型に当たるかで、遡及するか将来にわたって処理するかが決まります。減価償却方法の変更は早い段階で分岐します。

なぜ遡及適用しないのか(基準が示した考え方)

基準の結論の背景では、減価償却方法の取扱いについて複数の考え方が比較されています。国際的な会計基準では、減価償却方法は「経済的便益の消費パターン」を反映する手法と位置づけられ、その変更は会計上の見積りの変更として処理されます(基準59項・60項)。一方、わが国では、取得時点で消費パターンを見積ることが難しいからこそ計画的・規則的な償却を行ってきたという経緯があり、この考え方に立てば減価償却方法の変更は遡及適用の対象になります(基準60項)。

基準は、実際に用いられている減価償却方法が定率法・定額法・生産高比例法などの計画的・規則的な方法に限られている実態を踏まえたうえで、会計方針として位置づければ継続性の原則による牽制効果が働くことを重視しています(基準61項)。そして、減価償却方法の変更は計画的・規則的な償却方法の中での変更であるものの、その変更の場面では固定資産に関する経済的便益の消費パターンに関する見積りの変更を伴うと考えられることから、「区別することが困難な場合」に該当するものとしました(基準62項)。

この整理は、実務上とても重要な帰結を生みます。減価償却方法は会計方針である以上、変更にあたっては正当な理由が求められます。一方で処理は見積りの変更と同様なので遡及はしません。「正当な理由の説明責任は会計方針の変更並み、処理の負担は見積りの変更並み」という組み合わせになります(基準62項)。

図2 会計方針の変更・区別が困難な場合・見積りの変更の位置づけ会計方針の変更(原則)処理:過去の期間のすべてに遡及適用(基準6項)注記:基準10項または11項区別が困難な場合処理:遡及適用しない(基準19項)注記:基準11項(1)(2)および18項(2)例:減価償却方法の変更会計上の見積りの変更処理:将来にわたり会計処理(基準17項)注記:基準18項(変更の内容と当期・将来への影響額)有形固定資産等の減価償却方法および無形固定資産の償却方法は会計方針に該当するが、その変更は「区別することが困難な場合」として取り扱われる(基準20項)

図2 同じ「会計上の変更」でも、処理と注記の根拠は三者三様です。減価償却方法の変更は中央に位置します。

比較軸 原則的な会計方針の変更 減価償却方法の変更
分類 会計方針の変更 会計方針の変更(ただし区別が困難な場合として取り扱う)
過去の財務諸表 過去の期間のすべてに遡及適用(基準6項) 遡及適用しない(基準19項・20項)
期首利益剰余金 累積的影響額を反映(基準7項(1)) 修正しない
比較情報 作り直す そのまま
正当な理由 必要 必要(基準62項)
注記の根拠 基準10項または11項 基準11項(1)(2)および18項(2)(基準19項ただし書き)

📊 当期の会計処理はどうなるか(数値例)

ここからは、自社の状況に当てはめやすいよう、簡単な数値例で当期の減価償却費と影響額を確かめます。数値はすべて説明用に設定したものです。

前提

  • 3月決算のA社。X2年4月1日に生産設備(機械装置)を取得原価1,600百万円で取得
  • 耐用年数8年、残存価額ゼロ、定率法(償却率0.250)で償却してきた
  • X5年3月期の期首(X4年4月1日)から定額法に変更する
  • 耐用年数と残存価額は変更しない(減価償却方法だけを変更する)
事業年度 期首帳簿価額 減価償却費 期末帳簿価額
X3年3月期(定率法) 1,600百万円 400百万円 1,200百万円
X4年3月期(定率法) 1,200百万円 300百万円 900百万円
X5年3月期(定額法へ変更) 900百万円 150百万円 750百万円
(参考)X5年3月期を定率法で継続した場合 900百万円 225百万円 675百万円

変更後の減価償却費は、期首帳簿価額900百万円を残存耐用年数6年(耐用年数8年-経過年数2年)で除して150百万円となります。従来どおり定率法を継続した場合の225百万円(900百万円×0.250)と比べると、当期の減価償却費は75百万円減少し、その分だけ税引前当期純利益は増加します。この75百万円が、基準18項(2)にいう当期への影響額に当たります。

翌期以降は毎期150百万円ずつ償却され、残存耐用年数6年で900百万円が費用配分されます(150百万円×6年=900百万円)。将来への影響額を合理的に見積ることができるのであれば、その金額も注記の対象になります(基準18項(2))。

製造原価に含まれる場合の影響額の算定

生産設備の減価償却費は製造原価に含まれるため、影響額の全額がそのまま当期の損益に出るとは限りません。一部は期末棚卸資産に配分されて翌期に繰り越されます。基準では、会計方針の変更が製造原価等に影響を与える場合について、まず変更前後の製造原価の差額を算出したうえで、これを合理的な方法で棚卸資産および売上原価等に配賦する簡便的な方法にも触れられています(基準46項なお書き)。減価償却方法の変更で注記する影響額を算定する際も、この考え方が参考になると考えられます。「償却費の差額=損益への影響額」と短絡せず、棚卸資産への配分後の金額を確かめることをおすすめします。

税務との差異はどう出るか

税務上の償却限度額は、税務署長の承認を受けて償却方法を変更しない限り従来の方法のままです(法人税法施行令52条1項)。上記の例で税務上は定率法を継続した場合、償却限度額225百万円に対して損金経理額は150百万円となり、差額75百万円は償却不足額となります。償却不足額は損金算入額を減らすだけで、将来減算一時差異は生じません。

逆に定額法から定率法へ変更した場合は、会計上の減価償却費が償却限度額を上回りやすく、超過部分は償却超過額として申告調整(加算)が必要になります。この場合は将来減算一時差異が生じるため、繰延税金資産の回収可能性の検討が加わります。どちらの方向への変更かで税効果の論点が出るかどうかが変わる点は、早めに共有しておきたいところです。

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🗒️ 求められる注記を条文で確認する

遡及適用をしない代わりに、注記で変更の内容と影響を説明することになります。基準19項ただし書きでは、注記については第11項(1)、(2)および第18項(2)に関する記載を行うとされています。それぞれの中身は次のとおりです。

根拠 注記する事項
基準11項(1) 会計方針の変更の内容
基準11項(2) 会計方針の変更を行った正当な理由
基準18項(2) 当期への影響額。当期への影響がない場合でも将来の期間に影響を及ぼす可能性があり、その影響額を合理的に見積ることができるときは当該影響額。合理的に見積ることが困難な場合はその旨

有価証券報告書等に含まれる財務諸表では、財務諸表等規則にも同趣旨の定めがあります。会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合には、①変更の内容、②変更を行った正当な理由、③変更が財務諸表に与えている影響額、④翌事業年度以降の財務諸表に影響を与える可能性がある場合の影響額(合理的に見積ることが困難なときはその旨)を注記することとされています(財務諸表等規則8条の3の6)。連結財務諸表については、この規定が準用されます(連結財務諸表規則14条の7)。

会社法の計算書類では、会計方針の変更に関する注記の定めの中に読み替えが置かれています。遡及適用をしなかった場合の注記事項のうち、会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難なときは「遡及適用をしなかった理由並びに適用方法及び適用開始時期」(ロ)を除くこととされています(会社計算規則102条の2第1項4号括弧書き)。つまり、計算書類では「なぜ遡及適用しなかったのか」を改めて説明する必要はありません。

有価証券報告書と計算書類で注記の文言をそろえたいという要請はよく出ますが、求められる事項は完全には一致しません。共通で書く部分(変更の内容・正当な理由・影響額)と制度ごとに追加・省略する部分を先に切り分けておくと、決算直前の差し替えが減ります。

📅 税務手続とのタイミングを外さない

会計上の判断と並行して、税務上の手続を進める必要があります。減価償却資産について選定した償却方法を変更しようとするときは、納税地の所轄税務署長の承認を受けなければなりません(法人税法施行令52条1項)。承認を受けようとする法人は、新たな償却方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までに、その旨と変更しようとする理由等を記載した申請書を提出することとされています(法人税法施行令52条2項)。

この期限は、実務上もっとも見落とされやすいポイントです。3月決算の会社がX5年3月期(X4年4月1日開始)から変更したい場合、提出期限はX4年3月31日であり、前期の決算作業が佳境に入る前に意思決定を終えている必要があります。

図3 3月決算会社が期首から償却方法を変更する場合の手順X4年1月〜2月変更の要否を検討し、取締役会等で意思決定する。監査人に事前相談し、正当な理由の説明資料を準備する。X4年3月31日まで納税地の所轄税務署長へ「減価償却資産の償却方法の変更承認申請書」を提出する(法人税法施行令52条2項)。X4年4月1日当事業年度の期首から新しい償却方法を適用する。過去の期間への遡及適用は行わない(基準19項)。X5年3月31日決算。変更の内容・正当な理由・当期および翌期以降への影響額を注記する(基準19項ただし書き)。

図3 税務の申請期限は「変更したい事業年度が始まる前日」です。会計の検討はそれより前に終えておく必要があります。

申請が却下される場合もあります。現によっている償却方法を採用してから相当期間を経過していないとき、または変更しようとする償却方法によっては各事業年度の所得の金額の計算が適正に行われ難いと認められるときは、申請を却下することができるとされています(法人税法施行令52条3項)。この「相当の期間」について、現によっている償却方法を採用してから3年を経過していない場合は、合併や分割に伴うものである等の特別な理由があるときを除き、相当の期間を経過していないときに該当するものとして取り扱われます(法人税基本通達7-2-4)。

なお、申請書の提出があった場合において、その事業年度終了の日(中間申告書を提出すべき法人については、その事業年度開始の日以後6月を経過した日の前日)までに承認または却下の処分がなかったときは、その日において承認があったものとみなされます(法人税法施行令52条5項)。処分の通知が届かないまま決算を迎えることもあるため、申請書の控えと提出日を会計上の変更の根拠資料と一緒に保管しておくことをおすすめします。

⚖️ 監査法人に問われる「正当な理由」をどう組み立てるか

減価償却方法は会計方針であるため、変更には正当な理由が必要です(基準5項、62項)。企業会計基準適用指針第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」では、会計基準等の改正に伴う変更以外の会計方針の変更を行うための正当な理由がある場合とは、①変更が企業の事業内容または企業内外の経営環境の変化に対応して行われるものであること、②変更が会計事象等を財務諸表により適切に反映するために行われるものであること、の2つの要件が満たされているときをいうとされています(適用指針6項)。

監査人はこれに加えて、日本公認会計士協会 監査・保証実務委員会実務指針第78号「正当な理由による会計方針の変更等に関する監査上の取扱い」を踏まえ、(1)経営環境の変化への対応、(2)より適切な反映、(3)変更後の会計方針が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に照らして妥当であること、(4)利益操作等を目的としていないこと、(5)当該事業年度に変更することが妥当であること(変更の適時性)を総合的に勘案するとされています(実務指針78号8項)。

減価償却方法の変更は損益に直接効くため、「今期に変更したい理由」が業績要因と結びついて見えると、説明の難易度が一段上がります。設備の稼働実績や生産計画といった客観的なデータを用意できるかどうかが分かれ目です。監査の現場でも、この点の確認に時間が割かれます。

変更前に社内でそろえておきたい資料(チェックリスト)

  • 対象資産の範囲と帳簿価額の一覧(どの資産グループを変更するのかを明示する)
  • 経済的便益の消費パターンが変わったことを示すデータ(稼働時間の実績推移、生産計画、設備更新計画、製品ライフサイクルの見通しなど)
  • なぜ当期からなのかの説明(設備投資の一巡、生産体制の見直し、事業再編などの時点が特定できる資料)
  • 変更後の方法が同種の資産に適用している方法と首尾一貫していることの確認
  • 当期および翌期以降の影響額の試算(棚卸資産への配分後の損益影響を含む)
  • 税務上の変更承認申請の要否と提出予定日(3年要件を満たすかの確認を含む)
  • 注記案のドラフト(有価証券報告書用・計算書類用の両方)

これらは、変更を決めてから集めようとすると間に合わないものばかりです。会計上の変更全体の考え方は過年度修正 完全ガイドにまとめていますので、あわせてご確認ください。

❓ よくある質問

Q. 期の途中から減価償却方法を変更することはできますか。

会計方針は原則として事業年度を通じて首尾一貫して適用することが求められるため、実務上は期首から適用する例が大半です。期中に変更する場合には、その時点に至って考慮せざるを得ない状況が生じたことを説明できる必要があると考えられます。税務上の申請期限も事業年度開始の日の前日であり(法人税法施行令52条2項)、期中に会計だけを変更すると方法のずれが生じます。

Q. 会計上は変更し、税務上は従来の方法のままにしてもよいのでしょうか。

会計と税務で方法が一致していなければならないという定めはありません。ただし償却限度額の計算は税務上の方法によるため、差異の管理が必要です。定率法から定額法への変更では償却不足額が生じ申告調整は不要ですが、逆方向では償却超過額の加算と繰延税金資産の検討が必要になります。可能であれば同時に変更する方が実務は簡素です。

Q. 耐用年数の変更と減価償却方法の変更を同時に行った場合、注記はどう書けばよいですか。

いずれも遡及適用は行いませんが、根拠が異なります。耐用年数の変更は会計上の見積りの変更として基準17項・18項により、減価償却方法の変更は基準19項・20項により取り扱われます。減価償却方法の変更については正当な理由の記載が求められる(基準11項(2))ため、変更の内容を「方法の変更」と「耐用年数の変更」に分けて記載し、影響額も可能な範囲で区分して示すと、読み手にも監査人にも伝わりやすくなります。

🧾 まとめ

減価償却方法の変更は、会計方針の変更でありながら遡及適用を行わない、やや特殊な位置づけの論点です。根拠は基準19項・20項という2つの短い条項で、結論の背景(基準59項〜62項)からは、継続性の原則による牽制を効かせつつ国際的な会計基準との整合も図るという判断が読み取れます。

実務で押さえるべきは、①過去の財務諸表は作り直さない、②その代わり変更の内容・正当な理由・影響額を注記する(基準19項ただし書き、財務諸表等規則8条の3の6、会社計算規則102条の2第1項4号括弧書き)、③税務上の変更承認申請は変更しようとする事業年度開始の日の前日までに提出する(法人税法施行令52条2項)、④正当な理由を客観的なデータで説明できるようにしておく、の4点です。とくに④は、決算期末に慌てて用意しても間に合いません。

監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区)。監査法人での上場企業・IPO準備企業の監査経験をもとに、過年度の会計処理の見直しや開示対応を支援しています。

本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の会計処理の判断は、監査人・専門家にご確認ください。

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