誤謬の訂正と内部統制報告制度|「開示すべき重要な不備」の判断

過年度の誤りが見つかり、有価証券報告書の訂正報告書を出すことになった。そのとき経理責任者の頭をよぎるのが、「内部統制報告書も訂正するのか」「開示すべき重要な不備を書くことになるのか」という問いだと思います。

これは金額の大小だけで決まる話ではなく、判断の順序と、その根拠を残せているかで結論が変わります。公認会計士として決算訂正と内部統制監査の対応に関わってきた立場から、判断の道筋を条項に当たりながら整理します。

この記事でわかること

  • 誤謬の訂正が内部統制報告書の訂正につながるかの2段階の判断
  • 「開示すべき重要な不備」の意味と、金額的・質的な判断の目安
  • 期末日までに是正できた場合とできなかった場合の取扱いの違い
  • 2024年4月1日以後開始事業年度から適用された改訂で変わった点

🧭 誤謬の訂正と内部統制報告制度はどうつながるのか

上場会社等は、事業年度ごとに財務報告に係る内部統制を評価した内部統制報告書を、有価証券報告書と併せて提出しなければならないとされています(金融商品取引法24条の4の4第1項)。この報告書に訂正すべき事由があるときは、訂正報告書を提出することになります(同法24条の4の5第1項)。

ここでいう「財務報告に係る内部統制」とは、会社における財務報告が法令等に従って適正に作成されるための体制をいい(内部統制府令2条2号)、それが「有効である」とは、適切な枠組みに準拠して整備及び運用されており、開示すべき重要な不備がないことをいうとされています(基準Ⅱ1(3))。つまり内部統制報告書が答えているのは「決算数値が正しいか」ではなく「体制が有効だったか」であり、両者は自動的には連動しません。

※ 本記事の「基準」「実施基準」は、企業会計審議会が2023年4月7日に公表した「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」及び同「実施基準」を指します(2024年4月1日以後開始する事業年度から適用)。

🗺️ 訂正が必要かは「2段階」で判断する

金融庁「内部統制報告制度に関するQ&A」問71は、有価証券報告書の訂正報告書を提出したことをもって直ちに連動して内部統制報告書の訂正報告書を提出しなければならないことにはならない、としています。そのうえで、訂正の原因となった誤りが、内部統制の評価範囲内からの、財務報告に重要な影響を及ぼすような内部統制の不備から生じたものであると判断される場合には、訂正報告書の提出が必要になると考えられる、と整理しています。実務では次の2段階のチェックとして使われます。

第1段階:その誤りは、当該事業年度の内部統制の評価範囲内で生じたか。適切に決定された評価範囲の外から開示すべき重要な不備に相当する事実が発見された場合には、内部統制報告書に記載した評価結果を訂正する必要はないと考えられます(Q&A問67)。評価していない領域について「有効」と述べたことにはならない、という考え方です。

第2段階:その誤りを防止・発見できなかった不備は、開示すべき重要な不備に当たるか。ここで初めて、金額的・質的な重要性の検討に入ります。

内部統制報告書の訂正が必要かの判定フロー過去の誤謬が判明し、有価証券報告書の訂正報告書を提出するその誤りは、当該事業年度の内部統制の評価範囲内で生じたかNo評価結果を訂正する必要はないと考えられる(金融庁Q&A 問67・問71)ただし翌期以降の評価範囲に含めるYes誤りを防げなかった不備は開示すべき重要な不備に当たるかNo内部統制報告書の訂正は不要と考えられる(金融庁Q&A 問71)不備は是正措置の対象として管理するYes訂正内部統制報告書の提出を前提に監査人と協議する(金融商品取引法24条の4の5第1項・金融庁Q&A 問71)

図1 有価証券報告書の訂正報告書を提出する場合に、内部統制報告書の訂正まで必要かを判定する流れ。

📊 「開示すべき重要な不備」とは何か

開示すべき重要な不備とは、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い財務報告に係る内部統制の不備をいいます(基準Ⅱ1(4)、内部統制府令2条10号)。経営者は、統制上の要点等に係る不備が財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い場合は、開示すべき重要な不備があると判断しなければならないとされています(基準Ⅱ3(4))。不備がすべて開示対象になるのではなく、重要性の関門を越えたものだけが報告書に書かれる二層構造です。

区分 意味 内部統制報告書での扱い
整備上の不備 必要な統制がない、または規定された統制では目的を十分に果たせない状態 報告書には記載しない。適切な者に報告し、是正措置の対象として管理する
運用上の不備 整備段階で意図したとおりに統制が運用されていない状態
開示すべき重要な不備 財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備(基準Ⅱ1(4)、内部統制府令2条10号) 期末日までに是正されなければ、内容と是正されない理由を記載し、有効でない旨を表明する(基準Ⅱ4(5)③)

金額的な重要性の見方

金額的重要性は、連結総資産、連結売上高、連結税引前利益などに対する比率で判断し、これらの比率は画一的に適用するのではなく、会社の業種、規模、特性など会社の状況に応じて適切に用いる必要があるとされています(実施基準Ⅱ1②ロa)。連結税引前利益については、おおむねその5%程度とすることが考えられるとされていますが、最終的には財務諸表監査における金額的重要性との関連に留意する必要があるとされています(同(注2))。

数値例(判断の当てはめ/筆者作成)

3月決算の連結会社A社。前期の連結税引前利益は42億円で、金額的重要性の目安を5%=2.1億円と定めていた。今期、前期のB事業部の売上の期間帰属の誤りが判明し、税引前利益ベースで3.6億円(8.5%)の修正が必要となった。B事業部は前期の重要な事業拠点として評価範囲に含まれ、誤りは受注承認と検収記録の突合が機能していなかったことに起因していた。

第1段階・第2段階のいずれも満たすため、訂正内部統制報告書の提出を前提に監査人と協議する整理になります。修正額が1.2億円(2.9%)で質的にも該当しないなら、是正は必要でも報告書の訂正までは要しないと整理できる余地があります。

金額の目安を下回っていても、上場廃止基準や財務制限条項に関わる事項、関連当事者との取引や大株主の状況に関する事項など、投資判断や財務報告の信頼性への影響から質的に重要と判断される場合があります。経営者の意図的な関与や、同種の誤りが複数期にわたっていた事情も、重要性を高める方向に働くと考えられます。

⏰ 期末日までに是正できたかで結論が変わる

経営者による内部統制評価は、期末日を評価時点として行うものとされています(基準Ⅱ3(1))。この一点が実務上の分かれ目です。開示すべき重要な不備が発見された場合であっても、評価時点(期末日)までに是正されていれば、財務報告に係る内部統制は有効であると認めることができるとされています(基準Ⅱ3(5))。一方、期末日後に実施した是正措置は付記事項に記載でき(基準Ⅱ3(5)(注)、Ⅱ4(6)②)、監査人の側でも追記情報として記載するとされています(基準Ⅲ4(1)(注))。

誤りが期中に見つかったのであれば、期末日までに統制を組み直して運用実績を作れるかが勝負どころです。誰が、いつまでに、どの統制を設計し直し、何件の運用証跡を残すのか。逆算して工程表に落とせるかで着地が変わります。

是正のタイミング別・内部統制報告書での取扱い期末日までに是正その事業年度の内部統制は有効と評価できる(基準Ⅱ3(5))期末日後~提出日期末日時点では有効でないと判断付記事項に是正措置を記載(基準Ⅱ4(6)②)提出日より後に判明訂正内部統制報告書の要否を判定する(上の図1の2段階で検討する)

図2 開示すべき重要な不備をいつ是正できたかで、内部統制報告書と内部統制監査報告書での扱いが変わる。

過年度の誤りへの対応を、判断の順序から整理します

修正再表示の要否判断、影響額の算定、内部統制上の評価と是正計画の設計まで、公認会計士が伴走支援します。お問い合わせフォームからご相談ください。

お問い合わせ過年度修正 完全ガイドを見る

⚖️ 2024年4月以後開始事業年度からの改訂で変わった点

2023年4月7日に公表された改訂基準・実施基準は、2024年4月1日以後開始する事業年度から適用されています。誤謬の訂正に関係する改訂は次のとおりです。

論点 改訂前 改訂後(2024年4月1日以後開始事業年度)
評価範囲外で不備が見つかった場合 明文の定めなし 少なくとも不備が識別された時点を含む会計期間の評価範囲に含めることが適切(実施基準Ⅱ2(2))
長期間、範囲外としてきた拠点 明文の定めなし 範囲に含める必要性の有無を考慮しなければならない(実施基準Ⅱ2(2))
付記事項 後発事象/期末日後の是正措置等 前年度に報告した開示すべき重要な不備の是正状況も記載(基準Ⅱ4(6)③)
財務諸表監査で見つけた範囲外の不備 明文の定めなし 監査人は評価範囲・評価への影響を考慮し、必要に応じて経営者と協議(基準Ⅲ2)

実務に効くのが1行目と2行目です。過年度の報告書を訂正しないという結論でも、その拠点を放置してよいわけではないという道筋が明文化されました。誤りが「ずっと範囲外だった子会社」で起きる例は少なくないため、毎期の範囲決定の見直しに直結します。

監査法人から実際に問われること

改訂により、財務諸表監査の過程で識別された内部統制の不備には経営者による評価の範囲外のものが含まれることがあり、監査人は当該不備が評価範囲及び評価に及ぼす影響を十分に考慮しなければならず、必要に応じて経営者と協議しなければならないとされました(基準Ⅲ2)。決算訂正の局面で「その拠点を評価範囲から外した根拠の記録を見せてほしい」と求められることが増えているのはこのためです。

基準は、評価範囲の決定方法及び根拠等を適切に記録しなければならないと定め(基準Ⅱ2(2))、報告書にも重要な事業拠点の選定に用いた指標とその一定割合などを決定の判断事由を含めて記載することが適切としています(基準Ⅱ4(4)①)。誤りが出てから根拠を作るのではなく、評価計画の段階で残しておく。ここが分かれ目です。

誤りが判明したときの確認リスト

  • 誤りが発生した事業年度の評価範囲に、その拠点・業務プロセスが含まれていたか
  • 評価範囲の決定方法と根拠の記録が残っており、監査人に示せるか
  • 誤りを防止・発見できなかった統制を特定し、整備上か運用上かを切り分けたか
  • 自社で定めた指標と比率に当てはめ、質的な要素もあわせて検討したか
  • 訂正の要否と是正の工程について監査人と協議し、結論と根拠を文書化したか

🗒️ よくある質問

Q. 監査法人から決算修正の指摘が多いと言われました。それだけで開示すべき重要な不備になりますか。

指摘された誤りが多いことをもって直ちに該当するものではなく、誤りを生じさせた内部統制上の不備の金額的・質的重要性を勘案して判断することとなるとされています(Q&A問68、問69)。その際は、その誤りを会社の内部統制によって防止・発見できなかったのかという観点から検討する必要があるとされています。

Q. 評価範囲外の子会社で誤りが出ました。内部統制報告書は訂正しなくてよいのでしょうか。

適切に決定された評価範囲の外から開示すべき重要な不備に相当する事実が発見された場合には、評価結果を訂正する必要はないと考えられるとされています(Q&A問67、問71)。ただし前提は「適切に決定された」範囲であることで、決定根拠を示せるかが実質的な論点です。加えて当該拠点は、少なくとも不備が識別された時点を含む会計期間の評価範囲に含めることが適切とされています(実施基準Ⅱ2(2))。

Q. 前年度に開示すべき重要な不備を報告しました。翌年度は何を書きますか。

改訂により、前年度に開示すべき重要な不備を報告した場合には、当該不備に対する是正状況を付記事項に記載することとされています(基準Ⅱ4(6)③)。是正が完了したかだけでなく、どの統制をどう組み直し、どの期間の運用状況を評価したのかを説明できる状態にしておくことが求められます。

🧾 まとめ

過年度の誤りが内部統制報告書に及ぶかどうかは、①その年度の評価範囲内で生じたか、②開示すべき重要な不備に当たるか、という2段階で決まります。有価証券報告書の訂正と内部統制報告書の訂正は自動的には連動しません。結論を左右するのは、評価範囲の決定根拠と重要性の判断根拠を事前に記録として残せているかどうかです。

連載では、誤謬の訂正の全体フローや訂正報告書の実務も扱っています。過年度修正 完全ガイドから関連回をご覧ください。次回は最終回として、IPO準備企業の直前期・申請期における過年度修正と監査対応を取り上げます。

📄 参考

引用した基準等:基準Ⅱ1(3)(4)・Ⅱ2(2)・Ⅱ3(1)(4)(5)・Ⅱ4(4)①・Ⅱ4(5)③・Ⅱ4(6)②③・Ⅲ2・Ⅲ4(1)/実施基準Ⅱ1②ロa・Ⅱ2(2)/金融商品取引法24条の4の4第1項、24条の4の5第1項/内部統制府令2条2号・10号/金融庁Q&A問67・68・69・71。

監修

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区)。上場会社の会計監査・内部統制監査、IPO支援に従事。過年度の会計処理の見直し、修正再表示の要否判断、内部統制上の評価と監査法人対応を支援しています。

本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の会計処理の判断は、監査人・専門家にご確認ください。

過年度修正・内部統制対応のご相談

誤謬の重要性判断、訂正要否の整理、是正計画と評価範囲の見直し、監査法人への説明資料の作成まで、公認会計士が実務に沿って支援します。

お問い合わせ過年度修正 完全ガイドを見る

IPO支援に強い、公認会計士 IPO支援に強い、公認会計士

ベンチャー・スタートアップ企業の
経営管理支援・IPO支援

お問い合わせ