葬儀や役所の手続きがひと段落すると、次に気になるのが「遺言書はあるのだろうか」ということではないでしょうか。引き出しから封筒が出てきたけれど開けていいのか分からない、そもそもどこを探せばいいのか見当がつかない——そんな戸惑いは、初めて相続を経験する方に共通するものです。
この記事では、遺言書の探し方3つのルートと、見つけたときに必要な家庭裁判所の「検認(けんにん)」の手続きを、専門用語をかみくだいて解説します。封がされた遺言書を勝手に開封すると、5万円以下の過料(かりょう・行政上の罰金のようなもの)の対象になり得ます(民法1005条)。開封する前に、ぜひこの記事をお読みください。
- 遺言書の3つの種類と、それぞれの探し方(自宅・法務局・公証役場)
- 家庭裁判所の「検認」が必要な遺言書・不要な遺言書の見分け方
- 検認の申立て先・費用・必要書類(どこで・いつまでに・何を持って)
- うっかり開封してしまった場合にどうなるか
📄 遺言書には3つの種類がある:まず全体像を押さえる
民法で定められている普通方式の遺言書は、主に次の3種類です(民法967条)。種類によって「どこを探すか」と「検認が必要か」が変わるため、最初に全体像を押さえておきましょう。
| 種類 | 探す場所 | 家庭裁判所の検認 |
|---|---|---|
| 自筆証書遺言(自宅等で保管) | 自宅の引き出し・仏壇・金庫、銀行の貸金庫など | 必要 |
| 自筆証書遺言(法務局の保管制度を利用) | 法務局(遺言書保管所)に照会して確認 | 不要 |
| 公正証書遺言 | 全国の公証役場の「遺言検索システム」で検索 | 不要 |
※このほか秘密証書遺言(内容を秘密にしたまま公証人に存在だけ証明してもらう方式)もありますが、利用件数はわずかです。見つかった場合は自宅保管の自筆証書遺言と同様に検認が必要です。
遺言書の有無は、遺産分けの話し合い(遺産分割協議)の進め方を左右し、相続税の申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内・相法27条)にも影響します。相続の手続き全体の流れは第1回「親が亡くなったらやることは?相続手続きの流れと期限一覧」で解説していますので、あわせてご覧ください。
🗒️ 遺言書の探し方:自宅・法務局・公証役場の3ルート
ルート1:自宅・貸金庫などの身の回りを探す
まずは故人の身の回りです。書斎の引き出し、仏壇、タンス、自宅の金庫、重要書類をまとめたファイルなどを確認します。銀行の貸金庫を契約していた場合は要注意です。貸金庫の中に遺言書が保管されているケースは珍しくありませんが、貸金庫を開けるには原則として相続人全員の同意を求められることが多く、時間がかかります。取引銀行に早めに確認しましょう。
また、生前に弁護士・司法書士・税理士などの専門家と付き合いがあった場合は、遺言書を預かっていないか問い合わせてみるのも有効です。
ルート2:法務局で「保管されていないか」を照会する
2020年(令和2年)7月に始まった自筆証書遺言書保管制度により、自筆の遺言書を法務局(遺言書保管所)に預けられるようになりました。故人がこの制度を使っていたかどうかは、相続開始後に「遺言書保管事実証明書」(手数料1通800円)を請求すれば確認できます。保管されていた場合は、遺言書の内容を証明する「遺言書情報証明書」(1通1,400円)を取得でき、この証明書は相続登記や金融機関の手続きにそのまま使えます。
📍 全国どこの法務局(遺言書保管所)でも請求できます(事前予約制・郵送請求も可)。ただし東京法務局台東出張所など、出張所の多くは遺言書保管業務を行っていないため、請求先は事前に法務省サイトでご確認ください。
⏰ 期限はありませんが、遺言書の有無で遺産分割の進め方が変わるため、なるべく早めの確認をおすすめします(請求できるのは遺言者の死亡後です)。
🧾 交付請求書、遺言者の死亡が確認できる戸籍(除籍)謄本、請求人の住民票の写し、相続人であることが確認できる戸籍謄本(法定相続情報一覧図の写しでも可)、本人確認書類、収入印紙。
なお、この制度には、相続人のうち誰か1人が証明書の交付や閲覧を行うと、他の相続人等全員に「遺言書が保管されています」と法務局から通知される仕組み(関係遺言書保管通知)があります。
ルート3:公証役場で公正証書遺言を検索する
公正証書遺言は、日本公証人連合会の「遺言検索システム」に登録されています。昭和64年(1989年)1月1日以降に作成された公正証書遺言が対象で、全国どこの公証役場からでも無料で検索できます。相続人・受遺者(遺言で財産を受け取る人)などの利害関係者が、遺言者の死亡後に請求できます。
台東区内では上野公証役場(台東区東上野1-7-2 冨田ビル4階・電話03-3831-3022)が最寄りの窓口の一つです。検索でヒットした場合、遺言の内容そのものは検索結果には出ないため、作成した公証役場に謄本(写し)の交付を請求します。持ち物は、遺言者の死亡の記載がある戸籍(除籍)謄本、自分が相続人であることを示す戸籍謄本、運転免許証などの本人確認書類です。
⚖️ 見つけても勝手に開封しない:検認とは何か
検認が必要な理由と、検認でやること
自宅などで自筆証書遺言(または秘密証書遺言)を見つけた場合、保管していた人や発見した相続人は、遅滞なく家庭裁判所に遺言書を提出して「検認」を請求しなければなりません(民法1004条1項)。検認とは、相続人の立会いのもとで裁判所が遺言書の形状・訂正の状態・日付・署名などを確認し、検認日現在の遺言書の内容を明確にして、その後の偽造・変造を防ぐための手続きです。
注意したいのは、検認は遺言書が有効か無効かを判断する手続きではないという点です。検認を経ても、方式不備などを理由に後から有効性が争われることはあり得ます。逆に、検認前に開封してしまっても、それだけで遺言書が無効になるわけではありません。
封印のある遺言書は家庭裁判所で開封する
封印(封をして印が押されているもの)のある遺言書は、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いがなければ開封できません(民法1004条3項)。検認を経ずに遺言を執行したり、家庭裁判所以外で開封したりすると、5万円以下の過料の対象になります(民法1005条)。「中身が気になるから」と自宅で開けてしまうと、他の相続人から「書き換えたのでは」と疑われ、トラブルの火種にもなりかねません。封筒のまま家庭裁判所に持ち込むのが鉄則です。
- 公正証書遺言(民法1004条2項)
- 法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言(遺言書情報証明書で手続き可能)
📅 検認の手続き:どこで・いつまでに・何を持って
📍 遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所。台東区にお住まいだった方の場合は東京家庭裁判所(千代田区霞が関1-1-2)です。
⏰ 「遅滞なく」(具体的な日数の定めはありませんが、相続の開始と遺言書の存在を知ったら速やかに)。相続税の申告期限(10か月)から逆算しても、早いに越したことはありません。
🧾 検認の申立書、遺言者の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本、相続人全員の戸籍謄本、収入印紙800円分(遺言書1通につき)、連絡用の郵便切手。遺言書は検認当日に持参します。
申立て後、家庭裁判所から相続人全員に検認期日(検認を行う日)の通知が届きます。申立人は遺言書を持って出席する必要がありますが、他の相続人の出席は任意です。検認が終わったら、遺言の執行(不動産の名義変更や預貯金の解約など)に必要な「検認済証明書」の交付を申請します。申立てから検認期日まで通常1〜2か月程度かかるため、その間に相続人の確定(戸籍集め)や財産調査を並行して進めると効率的です。戸籍の集め方は次回・第6回で詳しく解説します。
🧾 よくある質問
A. 開封しただけで遺言書が無効になることはありません。ただし5万円以下の過料の対象になり得るほか(民法1005条)、他の相続人との間で偽造・変造を疑われるリスクがあります。開封後であっても検認は必要ですので、そのままの状態で速やかに家庭裁判所に検認を申し立ててください。
A. いいえ。検認は遺言書の状態を確認・保存する手続きであり、有効・無効を判断するものではありません。日付や署名・押印がないなど方式に不備があれば、検認後でも無効と判断されることがあります。内容や有効性に不安がある場合は専門家にご相談ください。
A. 内容が矛盾する部分については、日付の新しい遺言が優先されます(前の遺言は抵触する部分について撤回したものとみなされます・民法1023条)。ただし、どの範囲が「抵触」するかの判断は難しいケースが多いため、見つかった遺言書はすべて検認を受けたうえで、弁護士等の専門家に確認することをおすすめします。
📅 まとめ:遺言書の確認は相続手続きの出発点
- 遺言書は「自宅・貸金庫」「法務局(保管事実証明書800円)」「公証役場(無料検索)」の3ルートで探す
- 封印のある遺言書は勝手に開封しない。家庭裁判所での開封・検認が必要(民法1004条)
- 検認を経ない執行・開封は5万円以下の過料の対象(民法1005条)。ただし遺言自体は無効にならない
- 公正証書遺言と法務局保管の自筆証書遺言は検認不要で、その分早く手続きに入れる
- 検認には1〜2か月程度かかるため、戸籍集め・財産調査を並行して進める
遺言書の有無は、その後の遺産分割・相続登記・相続税申告のすべての前提になります。前回の第4回「口座凍結はいつ?遺産分割前に使える預貯金の仮払い制度」とあわせて、落ち着いて一つずつ進めていきましょう。連載全体の目次は「相続税 完全ガイド」をご覧ください。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所、東京都台東区入谷)。相続税申告・相続手続きの支援を行っています。
本記事は執筆時点の法令等に基づく一般的な情報提供であり、個別の判断は税理士等の専門家にご相談ください。
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参考:e-Gov法令検索「民法」(967条・1004条・1005条・1023条)、東京家庭裁判所「遺言書の検認」、法務省「自筆証書遺言書保管制度」、日本公証人連合会「遺言検索システム」