口座凍結はいつ?遺産分割前に使える預貯金の仮払い制度と上限150万円

「葬儀費用や当面の生活費を故人の口座から下ろしたいのに、凍結されたら困る…」。ご家族を亡くされた直後、多くの方が最初に不安になるのがお金のことです。

実は、銀行口座は死亡届を出した瞬間に自動で凍結されるわけではありません。また、凍結された後でも、遺産分割前に一定額まで単独で払い戻せる「仮払い制度」(民法909条の2)が用意されています。

この記事では、口座凍結の仕組みと凍結前に引き出す場合のリスク、仮払い制度の計算方法・必要書類を、相続がはじめての方に向けてわかりやすく解説します。

この記事でわかること

  • 口座が凍結されるタイミングと、凍結されると何ができなくなるか
  • 凍結前に勝手に引き出すことの3つのリスク(相続放棄・トラブル・相続税)
  • 仮払い制度でいくらまで引き出せるか(計算式と150万円の上限)
  • 仮払いの手続き先・必要書類と、150万円を超えて必要なときの方法

💳 口座凍結はいつ?死亡届では自動的に凍結されない

凍結されるのは「金融機関が死亡を知った時」

亡くなった方(被相続人=相続される側の人)の口座が凍結されるのは、その金融機関が死亡の事実を知った時です。区役所に死亡届を提出しても、役所から銀行へ連絡が行く仕組みはありません。実際には、ご家族が相続手続きのために銀行へ申し出た時や、銀行が新聞のお悔やみ欄・訃報などで死亡を把握した時に凍結されます。

凍結は嫌がらせではなく、一部の相続人が勝手に預金を引き出して相続人同士のトラブルになることを防ぐための措置です。凍結を恐れて死亡の連絡を先延ばしにするのではなく、この記事で紹介する仮払い制度などの正しい方法で当面の資金を確保することをおすすめします。

凍結されると何ができなくなる?

口座が凍結されると、原則として遺産分割の手続きが済むまで、その口座は入出金ともにストップします。ATMでの引き出しだけでなく、公共料金・家賃・保険料などの自動引き落としもできなくなるため、故人名義の契約は早めに解約・名義変更や支払方法の変更を行いましょう。年金の振込については、受給停止の手続き(死亡後、厚生年金10日以内・国民年金14日以内が目安)とあわせて、前回の記事「死亡後の年金手続きは14日以内が目安」で解説しています。

⚠️ 凍結前に勝手に引き出すのは危険?3つのリスク

「凍結される前にキャッシュカードで下ろしてしまえばいい」と考える方は少なくありません。しかし、次の3つのリスクがあることを知っておいてください。

リスク1:相続放棄ができなくなるおそれ

引き出したお金を自分のために使ってしまうと、相続財産の「処分」にあたり、相続を無条件で受け入れたもの(単純承認)とみなされる可能性があります(民法921条1号)。そうなると、後から故人に借金が見つかっても、相続放棄(民法915条1項・自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内)が認められなくなるおそれがあります。借金の有無がはっきりしないうちは、預金に手を付けないのが原則です。相続放棄は連載第8回で詳しく解説する予定です。

リスク2:他の相続人とのトラブル

預金は相続人全員の共有財産です。一人が無断で引き出すと、「使い込みではないか」と疑われ、遺産分割協議がこじれる典型的な原因になります。やむを得ず引き出して葬儀費用などに充てた場合は、日付・金額・使いみちを記録し、領収書を必ず保管してください。

リスク3:相続税の申告漏れにつながる

亡くなる直前に引き出した現金は、使わずに残っていれば相続開始日の「手許現金」として相続財産に含めて申告する必要があります。税務署は過去の入出金履歴を金融機関に照会できるため、直前の引き出しは把握されやすいポイントです(税務署のチェックポイントは連載第18回で詳しく取り上げます)。なお、引き出したお金を葬式費用に充てた場合、その葬式費用は相続税の計算上差し引けます(債務控除・国税庁タックスアンサーNo.4129)。

💰 遺産分割前でも引き出せる「預貯金の仮払い制度」とは

2019年7月1日に施行された改正民法により、遺産分割協議(相続人全員で遺産の分け方を決める話し合い)が終わる前でも、各相続人が単独で、家庭裁判所の手続きなしに預貯金の一部を払い戻せる制度ができました(民法909条の2)。葬儀費用や当面の生活費といった急な資金需要に応えるための制度です。

いくらまで?計算式と150万円の上限

単独で払い戻せる金額は、次の計算式で求めます。

💡 仮払いできる金額(金融機関ごと)

相続開始時の預貯金残高 × 3分の1 × 払い戻す相続人の法定相続分

ただし、同一の金融機関からは合計150万円が上限です(複数の支店・口座があっても金融機関単位で150万円まで。平成30年法務省令第29号)。

具体例で確認しましょう。相続人が妻と子2人で、A銀行に600万円の預金があった場合、妻の法定相続分は2分の1なので「600万円×1/3×1/2=100万円」まで払い戻せます。子1人分は法定相続分4分の1で「600万円×1/3×1/4=50万円」です。一方、A銀行の預金が1,200万円なら妻の計算結果は200万円ですが、上限があるため150万円までとなります。

ケース(相続人:妻・子2人) 計算 妻が払い戻せる額
A銀行に預金600万円 600万円×1/3×1/2=100万円 100万円
A銀行に預金1,200万円 1,200万円×1/3×1/2=200万円→上限超え 150万円
A銀行600万円+B銀行600万円 各行で100万円ずつ(上限は金融機関ごと) 合計200万円

※法定相続分(誰がどの割合で相続するかの民法上の目安)や相続人の範囲は、連載第6回で詳しく解説する予定です。

どこで・いつまでに・何を持って

📍 どこで:故人の口座がある各金融機関の窓口(金融機関ごとに手続きが必要)

いつまでに:法律上の期限はありませんが、遺産分割が成立する前に行う制度です

🧾 何を持って:一般に①被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍・改製原戸籍を含む)、②相続人全員がわかる戸籍謄本、③払い戻しを受ける方の印鑑登録証明書・本人確認書類など。必要書類は金融機関により異なるため、必ず事前に電話等で確認してください。

払い戻した後の注意点

仮払いで受け取ったお金は、遺産分割のときにその相続人が遺産の一部を先に取得したものとして扱われます(民法909条の2後段)。つまり「もらい得」になるわけではなく、最終的な取り分から差し引かれます。また、葬儀費用に充てた場合は、相続税の債務控除のためにも領収書・支払い記録を保管しておきましょう。相続放棄を検討している方は、払い戻したお金を自分のために使うと単純承認とみなされるおそれがあるため、仮払い制度の利用自体を控え、専門家に相談してください。

⚖️ 150万円を超えて必要なとき:家庭裁判所の仮分割

窓口での仮払いでは足りない場合、家庭裁判所に遺産分割の調停・審判を申し立てたうえで、預貯金の「仮分割の仮処分」を求める方法があります(家事事件手続法200条3項)。生活費の支払いや相続債務の弁済などの必要性が認められ、他の相続人の利益を害しない範囲で、150万円の上限にかかわらず払い戻しが認められる可能性があります。手続きには時間と手間がかかるため、金額が大きいケースや相続人間で対立があるケースでは、早めに弁護士等の専門家へ相談しましょう。

📋 当面のお金のためにやっておきたいことチェックリスト

  • 故人名義の口座と金融機関を一覧にする(通帳・キャッシュカード・スマホアプリを確認)
  • 公共料金・家賃・サブスク等、故人口座からの自動引き落としを洗い出し、名義変更・解約する
  • 葬儀費用など故人のお金を使った場合は、領収書と使途メモを必ず残す
  • 借金の有無がわかるまで、故人の預金を自分のために使わない
  • 当面の資金が足りなければ、仮払い制度の必要書類を金融機関に確認する

相続手続き全体の流れと期限は、連載第1回「親が亡くなったらやることは?相続手続きの流れと期限一覧」でまとめています。

❓ よくある質問

Q. 死亡届を出すと、口座はすぐ凍結されますか?

いいえ。役所から金融機関へ死亡の情報が連携される仕組みはなく、金融機関が死亡を知った時点で凍結されます。ただし、凍結されていないからといって自由に使ってよいわけではなく、預金は相続人全員の共有財産として扱う必要があります。

Q. 凍結前に家族がATMで引き出して、葬儀費用に充ててもいいですか?

葬儀費用への充当は実務上よく行われますが、相続放棄ができなくなるリスクや相続人間のトラブルを避けるため、金額・日付・使途の記録と領収書の保管が必須です。借金の有無が不明な段階では、引き出し自体を控えるのが安全です。

Q. 仮払い制度を使うと相続放棄できなくなりますか?

払い戻したお金を自分の生活費など自分のために消費すると、相続財産の処分(民法921条1号)として単純承認とみなされるおそれがあります。相続放棄を検討中の方は仮払い制度の利用を控え、事前に弁護士等へご相談ください。

🗒️ まとめ

口座凍結は死亡届で自動的に行われるのではなく、金融機関が死亡を知った時に行われます。凍結前の安易な引き出しには、相続放棄・相続人間トラブル・相続税申告の3つのリスクがあるため、当面の資金は仮払い制度(相続開始時残高×1/3×法定相続分、金融機関ごとに150万円上限)で確保するのが安全です。連載の全体像は「相続税 完全ガイド(目次)」からご覧いただけます。次回は、遺言書の探し方と検認について解説する予定です。

監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。IPO支援・税務顧問のほか、台東区(上野・浅草・入谷)を中心に相続税申告のご相談に対応しています。

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※本記事は2026年7月時点の法令等に基づいています。個別の判断は税理士等の専門家にご相談ください。
参考:e-Gov法令検索「民法」(909条の2・915条・921条)e-Gov法令検索「家事事件手続法」(200条3項)法務省「相続に関するルールが大きく変わります(遺産分割前の預貯金の払戻し制度)」国税庁タックスアンサーNo.4129「相続財産から控除できる葬式費用」

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