「相続の手続きには戸籍が必要と言われたけれど、そもそも相続人は誰なのだろう」「出生までさかのぼる戸籍って、どうやって集めるの?」――初めての相続では、多くの方がここでつまずきます。
相続人の確定は、遺産分割・預貯金の解約・相続登記・相続税申告など、すべての相続手続きの出発点です。この記事では、法定相続人の範囲・順位・相続分のルールと戸籍の集め方を、税知識ゼロの方に向けてやさしく解説します。
- 法定相続人の範囲と順位(配偶者は常に相続人)・法定相続分の割合
- 相続税の基礎控除と「法定相続人の数」の関係(放棄・養子の扱い)
- 出生から死亡までの戸籍の集め方と、2024年3月開始の広域交付制度
- 法務局の「法定相続情報一覧図」(手数料無料)の活用法と台東区の窓口
👤 法定相続人とは?範囲と順位のルール
法定相続人とは、民法で定められた「亡くなった方の財産を相続する権利を持つ人」のことです。誰が相続人になるかは家族の話し合いで決めるものではなく、民法のルールで自動的に決まります(民法887条・889条・890条、国税庁タックスアンサーNo.4132)。
配偶者は常に相続人になる
亡くなった方(被相続人=ひそうぞくにん)の配偶者は、常に相続人となります(民法890条)。ここでいう配偶者は法律上の婚姻関係にある方を指し、内縁関係(事実婚)のパートナーは相続人に含まれません。
配偶者以外は「順位制」で決まる
配偶者以外の親族は、次の順位にしたがって配偶者と一緒に相続人になります。先の順位の人が1人でもいれば、後の順位の人は相続人になりません。
| 順位 | 相続人になる人 |
|---|---|
| 第1順位 | 子。子が先に亡くなっている場合は、その子(被相続人の孫)が代わりに相続します(代襲相続) |
| 第2順位 | 直系尊属(父母・祖父母など)。第1順位の人がいないときに相続人になります。父母と祖父母がいる場合は、近い世代の父母が優先されます |
| 第3順位 | 兄弟姉妹。第1順位・第2順位の人がどちらもいないときに相続人になります。先に亡くなっている場合は、その子(甥・姪)が代わりに相続します |
代襲相続:子や兄弟姉妹が先に亡くなっているとき
本来相続人になるはずだった子が被相続人より先に亡くなっている場合、その子の子(被相続人の孫)が代わりに相続します。これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)といいます(民法887条2項)。孫も亡くなっていればひ孫へと下の世代に続きます。一方、兄弟姉妹の場合の代襲は甥・姪までの一代限りで、甥・姪の子には引き継がれません(民法889条2項)。
💰 法定相続分:誰がどれだけ相続するか
民法は、相続人の組み合わせごとに遺産の取り分の目安(法定相続分)を定めています(民法900条、No.4132)。
| 相続人の組み合わせ | 法定相続分 |
|---|---|
| 配偶者と子 | 配偶者 2分の1/子 2分の1(子が2人以上なら全員で2分の1を均等に分けます) |
| 配偶者と直系尊属 | 配偶者 3分の2/直系尊属 3分の1 |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者 4分の3/兄弟姉妹 4分の1 |
たとえば「配偶者と子2人」なら、配偶者2分の1・子はそれぞれ4分の1ずつです。なお、法定相続分はあくまで「遺産分割の合意ができなかったときの持分」であり、相続人全員が合意すれば異なる割合で分けてもかまいません(No.4132)。また、遺言書があれば原則として遺言の内容が優先されます。遺言書の探し方は第5回(遺言書の探し方と検認)をご覧ください。
相続税の基礎控除も「法定相続人の数」で決まる
法定相続人の人数は、相続税の計算にも直結します。相続税は、遺産の総額が基礎控除額「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超える場合にだけかかります(相法15条、No.4152)。たとえば法定相続人が3人なら基礎控除は4,800万円です。
- 相続の放棄をした人がいても、放棄がなかったものとして人数に含めます(相法15条、No.4152)
- 養子は、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までしか人数に含められません(相法15条、No.4170)。民法上の相続権とは別のルールです
「うちは相続税がかかるのか」の判定方法は、第11回「相続税はいくらから?」で詳しく解説する予定です。
⚖️ 間違えやすいケース:この人は相続人?
| ケース | 相続人になる? |
|---|---|
| 内縁の妻・夫 | なりません。法律上の婚姻関係が必要です(No.4132) |
| 離婚した元配偶者 | なりません。ただし元配偶者との間の子は第1順位の相続人です |
| 再婚相手の連れ子 | 養子縁組をしていなければ相続人にはなりません |
| 養子 | 実子と同じく第1順位の相続人です(税金計算上の人数制限は前述のとおり) |
| 相続放棄をした人 | 初めから相続人でなかったものとされます(民法939条)。次の順位の人に相続権が移る点に注意が必要です |
相続放棄(3か月以内)については第8回で詳しく取り上げる予定です。
📄 戸籍の集め方:出生から死亡までさかのぼる
相続人を確定するには、被相続人の「出生から死亡までの連続した戸籍」を集める必要があります。認知した子や前婚の子、養子など、家族も知らなかった相続人がいないことを客観的に証明するためで、預貯金の解約・相続登記・相続税申告のいずれでも求められます。
集める書類の基本セット
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本)
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 手続きに応じて:被相続人の住民票の除票、相続人の住民票・印鑑証明書など
※結婚や転籍、戸籍の様式改製のたびに戸籍は作り直されるため、生涯分をたどると通常3〜5通以上になります。
広域交付:本籍地以外でも「まとめて」取れる(2024年3月開始)
戸籍法の改正(令和6年3月1日施行)により、本籍地が遠方にあっても、最寄りの市区町村の窓口で戸籍証明書をまとめて請求できるようになりました(広域交付)。転籍を繰り返した方の戸籍集めが、以前よりぐっと楽になっています。
📍 どこで:全国どこの市区町村の戸籍窓口でも請求できます(台東区では区役所の戸籍住民サービス課)
⏰ いつ:窓口請求のみ(郵送・代理人・電子申請は不可)。受付時間に制限があり、さかのぼり戸籍は後日交付となる場合があります。最新の受付時間は請求先の市区町村にご確認ください
🧾 何を持って:運転免許証・マイナンバーカード・パスポートなど顔写真付きの本人確認書類(健康保険証は不可)
- 請求できるのは本人・配偶者・直系尊属(父母など)・直系卑属(子など)の戸籍のみ。兄弟姉妹の戸籍は請求できません(本籍地へ請求します)
- コンピュータ化されていない一部の古い戸籍・除籍は対象外です
- 一部事項証明書・個人事項証明書や戸籍の附票などは取得できません
| 証明書の種類 | 手数料(1通) |
|---|---|
| 戸籍全部事項証明書(戸籍謄本) | 450円 |
| 除籍全部事項証明書(除籍謄本) | 750円 |
| 改製原戸籍謄本 | 750円 |
🗒️ 法定相続情報一覧図:無料で「戸籍の束」の代わりに
集めた戸籍一式と相続関係を一覧にした図(法定相続情報一覧図)を法務局に提出すると、登記官が内容を確認したうえで、認証文付きの一覧図の写しを無料で必要な枚数だけ交付してくれます(法定相続情報証明制度・平成29年5月創設)。
- 相続登記の申請、預貯金の払戻し、相続税の申告、年金関係の手続きなどで「戸籍の束」の代わりに使えます
- 交付は何枚でも無料。複数の銀行・手続きを同時並行で進められます
- 申出は、被相続人の本籍地・最後の住所地、申出人の住所地などを管轄する法務局でできます(台東区の相続登記の管轄は東京法務局台東出張所)
戸籍を1セット集めて一覧図を作っておくと、その後のすべての手続きが格段にスムーズになります。相続税申告の期限(10か月・相法27条)から逆算しても、早めの準備がおすすめです。
台東区(上野・浅草・入谷)で相続税のご相談は、鈴木佑也公認会計士税理士事務所へ。戸籍の収集や相続人の確定から、財産調査・相続税申告まで一貫してお手伝いします。
❓ よくある質問
広域交付で請求できるのは本人・配偶者・直系尊属・直系卑属の戸籍に限られ、兄弟姉妹の戸籍は請求できません。兄弟姉妹が相続人になるケースでは、被相続人の父母の出生までさかのぼる戸籍も必要になり収集の負担が大きいため、専門家に依頼することも選択肢になります。
相続税の基礎控除で使う「法定相続人の数」は、放棄がなかったものとした場合の人数で数えます(相法15条、No.4152)。民法上の遺産の取り分と、相続税の計算上の人数は別のルールと覚えておきましょう。
広域交付の開始で以前より楽になりましたが、転籍が多い方、古い手書きの戸籍(広域交付の対象外)がある方、兄弟姉妹が相続人のケースなどは時間がかかります。相続税の申告期限は10か月です。財産調査や遺産分割の準備と並行して早めに着手し、難しいと感じたら税理士・司法書士などの専門家に依頼しましょう。
✅ まとめ:相続人の確定がすべての手続きの土台
- 配偶者は常に相続人。それ以外は子→直系尊属→兄弟姉妹の順位制(民法887・889・890条)
- 法定相続分は「配偶者と子なら2分の1ずつ」など。全員の合意があれば違う分け方も可能
- 相続税の基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数(相法15条)
- 戸籍は出生から死亡まで連続して収集。広域交付なら最寄りの窓口でまとめて取得可能
- 法定相続情報一覧図(無料)を作れば、戸籍の束を何度も出し直さずに済む
次回・第7回は、預貯金・不動産・株式・借金まで含めた「財産調査のやり方」を解説します。相続手続き全体の流れは第1回(相続手続きの流れと期限一覧)を、連載全体の目次は相続税 完全ガイドをご覧ください。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。IPO支援・法人税務とともに、台東区(上野・浅草・入谷)を中心に相続税申告のサポートを行っています。
相続人の確定から相続税の試算・申告まで、初めての方にもわかりやすくご説明します。お問い合わせフォームからご連絡ください。
※本記事は掲載日時点の法令等に基づく一般的な情報です。個別の判断は税理士等の専門家にご相談ください。
参考:国税庁 タックスアンサーNo.4132 相続人の範囲と法定相続分/No.4152 相続税の計算/No.4170 相続人の中に養子がいるとき/法務省 戸籍法の一部を改正する法律について(広域交付)/法務局 法定相続情報証明制度について/台東区 戸籍証明書等の広域交付について